続・あなたの色に染められて
第1章 Sweet life
『…チッ…。』
気に入らねぇ…。
視線の先で俺の可愛いカミさんにピタリと寄り添いパソコンの画面を覗く新入社員の風間柊治。
『…ったく。』
あの野郎 マジで気に入らねぇ。
『そう これこれ。やっぱり甘口も試してみたいってパリの本店のシェフからも話が出てるみたいで。』
『甘口かぁ…あっちではフルーティーな方がワインに似てて口に合うのかな?』
『いや そう言う訳じゃないと思うよ。ワインの甘さと日本酒の甘さは違うから。』
この風間ってヤツは山梨の老舗ワイナリーの息子。
まぁ 俺と似たような境遇のヤツ。
『じゃあ 風間くんに任せちゃおうかなぁ。』
あの若さでフランスだイタリアだと転々としながらワインの勉強を何年もしてきたようで
『璃子ちゃん待ってよ。こんなデカイ取引だよ?任せるなんて言わないで二人で協力してやろうよ。』
最後の締め括りに日本のお酒のことをきちんと学びたいだなんて言って 親父のコネで期間限定で入社してきたコイツ。
璃子と同じ年だからかやたら気が合うらしく 言葉遣いだって妙にフランクで
『そうね。じゃあ…二人で頑張ってみようか。』
なんて璃子も璃子で笑顔なんか見せちゃって
『…ハァッ…。』
すっかり蚊帳の外の俺は自然と溜め息を漏らしてしまう。
『じゃ 決定だね。』
で、璃子に手を差し出すこの男は 困ったことに仕事ができる。
英語にフランス語おまけにイタリア語までペラペラ。
そんなことだから正月明けに入社してきたばかりなのに海外営業部のメンバーとして璃子の右腕となり大活躍しちゃって
『じゃあ 璃子ちゃん 今日こそは打ち合わせがてらに昼飯でもどう?』
それはイタリア仕込みの人当たりの良さとキラリと光る営業スマイルのせいなのか
『だからっ…お昼は京介さんと食べるって言ってるでしょ?』
璃子が遠慮もしないでアイツにはっきりとモノをを言うから反ってそれが恨めしくも見えちゃったりして
だからだな…独占欲の強い俺がこの現場を目撃してしまうと
『ヤってらんねぇ。』
ボールペンを机の上に放り投げて乱暴に椅子を引き
『外に昼飯食ってきまーす。』
ジャケットを肩にかけ
『もう…風間くんのバカ!』
璃子の困った声を聞きながら事務所のドアを閉めた。