続・あなたの色に染められて
第5章 サマーバカンス
『引き離そうとするの。』
『どうして?』
『それがわからないんですよ。沙希さんが京介さんに特別な感情を抱いてるのはわかるんですけど。』
『お父さんの影を追ってるとか。』
『そうね。球場に来るとまるで親子みたいだもんね。』
璃子が仕事で顔を出せない土日も彼女たちは球場に現れることが多かった。
そして いつも練習の傍らで京介さんに素振りや投球フォームを指導してもらって
『それならしょうがないかな…。』
『なんでしょうがないのよ。』
璃子は寂しそうに微笑むと
『京介さん子供好きだから。長谷川さんがケンタくんに野球教えてるのすごく羨ましいって前に言ってましたし。』
自分のお腹にそっと手を置くと小さく溜め息をついて
『仕方ないですよ。』
まるで自分のせいだと言っているようだった。
『璃子ちゃん それは違うよ?』
『いえ 授かれないのは私が悪いですから。』
この子はどうしてなんでも自分のせいにするのだろう。
やっと胸の内を話し始めたかと思ったのに 最後はやっぱり自分のせいだと勝手に自己解決しちゃって
『この間幸乃さんに言われたでしょ?赤ちゃんを授かるのは奇跡なの。だから 璃子のせいなんかじゃないよ?』
『そうよ ちゃんと京介くんに話してごらん。赤ちゃんのことも沙希さんたちのことも。』
『妊活の問題は夫婦の問題なんだから 二人で共有して解決しなさい。』
言葉では表現できない想いが璃子の頬を涙となってこぼれ落ちる。
『どうして いつもこうなっちゃうんだろ…。』
それは璃子の本音
『普通でいいのにな…普通で。』
璃子は指先でお湯を撫でるように波を立てて唇を震わすと
『京介くんと結婚するとこれが普通なのかもよ?』
幸乃さんは思いもしない言葉を紡ぐ
『普通なんて 人それぞれなの。うちだって今までいろんなことがあったわ。でも それをパパと二人で乗り越えてこれた。』
『私もかな…。二人の気持ちが同じ方向向いてれば頑張れるよ。だから そんな顔すんな!』
『いひゃい!いひゃい!』
柔らかな頬をつねるとさっきまで涙をこぼしていた顔が ほらね
…無敵の微笑みに変わる。
『アンタにはこれがあるでしょ?。』
指差したのは薬指に輝くリング
『うん!私がお嫁さんだもんね!』
そのリングに視線を落とすと微笑みながら唇を落とした。