続・あなたの色に染められて
第5章 サマーバカンス
『早くおいで。』
先にベッドに入っていた京介さんがいつものようにトントンとマットを叩く。
電気を消して彼に背を向けて潜り込むと 窓の向こうに大きな月が真っ黒な海を照らしていた。
『窓開けたら波の音が聴こえるかな?』
エアコンの効いた部屋から黒く輝く海を眺め 背中に京介さんのぬくもりを感じて
『しーっ……あっ 少し聞こえる。』
『ホントだ 聞こえますね。』
私のお腹に廻る大きな手に指を絡めて 彼の吐息を耳で感じて
『ダメですよ。』
冷たい唇が耳朶に落とされると 私は身を捩るようにして反転し彼の胸に頬を埋めた。
長い手が腰からゆっくりと撫で上がり 私の頬に添えられると
『やっぱダメか…。』
唇を尖らせて残念そうに溜め息をこぼした。
『ハイ ダメです。』
みんなで泊まってるからっていうのもあったけど 今日の私は彼の胸にただ寄り添いたい気分だった。
『なんか疲れちゃいました。』
リビングでの沙希さんの一件と和希くんからの寂しい言葉を未だ解消出来ない私
『そか。』
京介さんは引き寄せるようにギュッと抱きしめると
『わかったよ。今日はこのまま寝よう。』
腕枕をしてくれている手で私の髪を撫でてくれた。
微かに聞こえる波音と彼の鼓動が奏はじめるとTシャツ越しに唇を寄せた。
『今日は悪かったな。』
彼の胸から響く掠れた声に私は首を横に振った。
『お酒の席ですから。』
聞き分けの良いふりして本当はまだ心に燻っているダメな私。
京介さんは結婚してから少しだけどこうやって私に言葉を紡いでくれるようになった。
お付き合いしてるときは「言わなくてもわかるだろ」的なオレ様だったけど 唇や指先 その掠れた声が私の心に安心を与えてくれる。
『明日 晴れますかね。』
『晴れるといいな。』
優しく髪を撫でてくれる指先が私を夢の世界に誘う。
『…京介さ……。』
『ん?』
『ありがと…。』
夢と現実の境界線に揺れる私
『大好き…。』
『ハイハイ いいからもう寝ろ。』
彼のぬくもりに体がフッと軽くなると私は夢の世界に舞い落ちた。
微かに聞こえる彼の声
額に感じる冷たい感触
落ちていく闇はゆりかごのように心地よく 私のすべてを包み込んでくれる。
早く彼の子供を授かりたいと願わずにいられなかった。