続・あなたの色に染められて
第5章 サマーバカンス
璃子を真っ直ぐに見据える和希くんに私たちは息をのんだ。
璃子だけが避けられてる理由は深いものだった。
『和希いい加減にしなさい!』
沙希さんは腕を取り引き離そうとするけど 和希くんも生半可な気持ちじゃないんだろうな
乱暴に涙を拭きながら沙希さんをグッと見据えて
『京介兄ちゃん野球やってるときにオレのこと好きだって…オレみたいな子が欲しいって言ってたもん!』
『それは…。』
『母ちゃんだって…そうなったらいい…』
『和希!』
パシッ!
沙希さんはその先の言葉を遮るように頬を叩くと
『母ちゃんのバカ!』
『和希!待ちなさい!』
浮き輪を手にして海へ走っていった。
璃子はこの大騒ぎの中でもスヤスヤと眠る雅也を胸に抱いて 汗で湿った髪を撫でていた。
『アハハ…もう本当に困っちゃう。』
沙希さんはこの場の雰囲気を変えようと誤魔化すように笑ってみせる。
でも 笑って済む話じゃない。
だって さっき遮った言葉の続きはきっと沙希さんの本心だから
『もうやだなぁ…京介をお父さんにしたいだなんて…。』
でも、沙希さんはなんとか取り繕うとヘラヘラと笑って話を続け
『この間 キャッチボールしてるところをクラスの子に見られて つい「新しいお父さんなんだ」って学校でウソついちゃったみたいで…。子供って困っちゃう。』
この人何考えてるんだろう。息子の失態を利用して既成事実を作ってるように見えるのは私だけ?
『京介が期待持たせること言うから 本気にしちゃったんだよなぁ。』
呆れた。京介さんのせいにまでして
私はフツフツと湧き上がる怒りを沈めようと小さく溜め息をつくと
『沙希さん。』
璃子が顔を上げずに彼女の名前を呼んだ。
その声は優しく落ち着いていて
『京介さんは悪くありませんよ。』
『…え。』
『京介さんのせいにしないでください。』
その声は沙希さんの瞳を泳がすほど力強い声だった。
そんな中何かを察知した長谷川さんと直也がテントの方に歩いてくるのが璃子の視界に入ると
『私は大丈夫ですから 早く和希くんを抱きしめてあげてください。』
そう言ってニコリと微笑み抱いていた雅也を私に託した。
『和希くんどうしたの?あんなに泣いて…。』
長谷川さんが振り向く方向に和希くんの頭を撫でながら慰める何も知らない京介さんが見えた。