続・あなたの色に染められて
第5章 サマーバカンス
声を上げて泣く和希に涙の理由を聞いても首を振るだけだった。
『何があったか知らねぇけど男は簡単に泣くもんじゃねぇぞ。』
調子に乗って沙希に怒られでもしたのかとテントに視線を向けると 走って別荘に戻って行く璃子の後ろ姿が目に映った。
…マジか
和希の涙と璃子の後ろ姿の意味…それは間違いなくヤツが関わってる。
『痛いっ。』
『おまえ璃子に何した?』
テントに和希を連れて戻ると俺はすぐに沙希の腕を掴んで問いただした。
『璃子に何したんだって聞いてんだよ。』
一瞬目を泳がせた沙希にもう一度詰め寄ると
『何って…和希がちょっと暴走しちゃって…』
俺の隣で泣いてる和希を見るとそれ以上問い詰められなくなる。
『もう せっかく連れてきてもらってるんだから泣かないの。』
その言葉に幸乃さんと美紀ちゃんが困ったように微笑んで俺に視線を向けた。
***
『…璃子』
扉を開けるとベッドに座って海を眺める璃子の姿があった。
横に座って顔を覗き込むと大きな瞳からポロポロと涙を零していた。
『どうした?』
頬を伝う雫は拭われることなく顎からポタポタと落ちて璃子の小さな手を濡らす。
頬を両手で包み込み涙を拭ってやると 璃子は唇を震わせて声をあげて泣き始めた。
胸に抱き寄せ背中を擦ると璃子は
『ごめんね…』
『いいから。』
『…ごめんなさい。』
何度も謝りながら泣きじゃくる璃子を俺は抱きしめることしか出来なかった。
*
別荘に入る前 幸乃さんに呼び止められた。
「璃子ちゃんの悩みごと知ってる?」
「悩みごと?」
一人で別荘に戻った理由とどう関係あるんだって首を傾げながら幸乃さんに聞き返すと
「夫婦の問題を璃子ちゃんは一人で抱えてるよ?惚れた腫れたじゃなくてちゃんと共有しなさい。」
俺の肩をグーで殴ると幸乃さんはそれ以上何も言わずにテントに戻った。
*
少し落ち着いてきた璃子を引き離し 涙でグショグショの顔を覗き込む。
『少しは落ち着いたか?』
璃子はフウっと息を吐くとコクリと頷いて
『ごめんなさい。』
また謝った。
『また一人で抱えてんだろ?』
額にキスを落とすと璃子は首を横に振って
『私がいけないの…』
大きな瞳にまた涙を浮かべて
『私たち…別れたほうがいいよ…』
優しく微笑みながら思いもしない言葉を紡いだ。