続・あなたの色に染められて
第5章 サマーバカンス
…よかった。
振り向くと京介さんに手を引かれた水着姿の璃子ちゃんがいた。
大きな浮き輪を持って海に入っていくその光景がみんなの目にも触れると安心したように俺たちは微笑んだ。
…カシャッ
シャッター音に振り向くと佑樹さんがスマホ片手にニヤリと笑い
『こりゃ画になるな。』
俺たちにその画面を見せてくれた。
微笑みあって寄り添って…二人の絆がまた強く結ばれたんだと画面を通しても伝わってきた。
けれども高校の頃からの親友の俺のかみさんは
璃子ちゃんは事の真相を京介さんに話すことはないだろうと仲間内だけに話していた。
あの娘は告げ口をするタイプではないから きっと自分のせいにしているって
だから根本的な解決にはならないだろうと…
でも、だからって俺たちがしゃしゃり出ていいものでもない。まして俺ら男っていうのは尚更なわけで
璃子ちゃんにそれとなく伝えてみると幸乃さんは言ってたけれど さてどうなんだろう。
沖に向かってゆっくりと浮き輪を引く京介さんにまだ心に闇を残しているであろう大切な人の想いをどう伝えればいいものか。
俺たちは目配せをしながら苦笑いした。
でも その問題は夕日に照らされたテラスに美紀と俺が呼び出されたことで動き始めた。
缶ビールを目の前に差し出され
『テントの中で何があった?』
優しく微笑んでいるけれど目は全く笑ってはいない。あの射抜くような瞳。
『璃子に聞いても絶対に口を割らねぇだろうから 沙希の事で知ってることあったら全部教えて?』
何事もなかったようにキッチンに立って料理を振る舞ってくれる璃子ちゃんに視線を向けながら
『マジで頼む。』
柄にもなく頭なんか下げた。
『京介さん頭あげてください。』
そんなことまでされなくても俺らが黙っていられるわけないでしょ?
ゆっくりと頭をあげた京介さんは小さく息を吐くと寂しげな顔をして美紀の視線を捉えた。
『京介さんが考えているよりも事態は深刻ですよ。』
『…深刻?』
璃子ちゃんの口から紡がれることのなかった一連の流れを美紀は声にのせる。
『沙希さんより問題は和希くんです。』
美紀はフゥっと息を吐いて京介さんの目を見据えると
『和希くんは…京介さんにお父さんになって欲しいと思っています。』
『…なんだよそれ。』
思っても見なかった言葉に頭を抱えた。