続・あなたの色に染められて
第6章 すれ違い
『あっ!京介さーん。』
嫌な予感がしてスタンドの階段を駆け上がると 璃子は予想に反して満面の笑みで俺に手を振った。
『試合何時からですか?』
魔女たちに囲まれて見上げるその大きな瞳に俺は少し心が苦しくなる。
『みんな揃ったからそろそろだろ。』
何でも話せと言ったのは俺の方なのに 今俺はコイツに隠し事をしている。
『京介さんも出ますよね?』
『あぁ。』
璃子を信用していないわけではない。でも どう話していいのか俺にはわからなかった。
傍にいる幸乃さんに目配せして 階段を降りるとちょうど死角となる踊り場で背中を叩かれた。
『大丈夫よ。』
まだ何も話してないのに俺がスタンドまで上がって行った意味をしっかり把握していて
『まったくいつまでたっても世話が焼けるんだから。』
幸乃さんらしい意地悪な微笑みを向けられると 俺は力が入っていた肩をフッと落として小さく息を吐いた。
『でも 話したわよ。』
…え。
戸惑いながら見下ろした瞳に微笑みはなく
『笑い話として話しておいた方がいいと思ったの。私たち以外の人からこの話を耳にしたらきっと璃子ちゃんは苦しむと思ったから。』
これ以上璃子を苦しめるなと忠告しているようだった。
そうだよな 結果的にいつかは耳に入るのなら璃子の信頼してる人から早めに耳に入れとくってことか…
『話してどうだった?』
さすが 長谷川さんの選んだ人だと今更ながらに感心して その後の様子を聞いてみた。
『もちろん最初は驚いてたけど私たちもそんなにバカじゃないわ。璃子ちゃんを安心させるように笑い話にして話したから。あとは京介くんがフォローしなさい。』
幸乃さんの頼りになる笑顔を見てまた少し心が落ち着いた。
でも 幸乃さんはひとつ大きな溜め息をつくと俺の顔を真顔で見上げて
『昔 何があったか知らないけど沙希さんのあのやり方は気に入らない。京介くんもバカじゃないから何か考えがあるんだろうけど ちゃんとケジメをつけなさい?次は無いわよ?』
『あぁ わかってる。』
俺の左胸をボスッと殴ると踵を翻し階段を駆け上がっていった。
たかが噂だけど噂として簡単に片付けられない事情がある。
沙希が俺に話してくれたことが本当だとしたら…
大切なものが音を立てて崩れてしまうだろう
それだけはどうしても避けなければならなかった。