
続・あなたの色に染められて
第6章 すれ違い
『ゴメンね。』
『はいどうぞ。』
ここに着いてからずっと頭を下げ続けるキミにとりあえずボクの着古したスエットを渡した。
『他に必要なものは?』
バック一つと会社の制服でボクの車に乗り込んだキミは簡単なメイク道具は持っているものの着替えやら日用品を何も持っていなかった。
ワイナリーの敷地内にあるプチホテルの簡素な売店で地味な下着やらメイク落としはとりあえず手に入れたけど
『明日は少し時間があるから買い物でも行こうか。』
『ゴメンね…。』
何度も頭を下げるキミの小さな頭をポンと叩いて視線を合わせて
『一人で大丈夫?』
あんなことがあってからまだ大した時間は過ぎていないけど
『うん…大丈夫。』
無理して微笑むキミが本当は心配で堪らない。
だけども さすがに同じ部屋で朝を迎えるわけにはいかない 結局拐ったって度胸のないオレ…
『はい これ。何かあったら電話して。』
ボクのバックに落としたスマホを戸惑うキミの手のひらに握らせることが精一杯だった。
『明日10時にロビーで待ってるから。おやすみ。』
『おやすみなさい。』
ペコリと頭を下げたキミに手を振り扉を閉めた。
***
カチャ
微かな期待を込めて開けたドア
『…だよな。』
そこはやっぱり真っ暗だった。
相変わらず綺麗に片付いた部屋に足を踏み入れ
『帰ってもこなかったのか。』
ソファーの横に早めに荷造りしておいた璃子のスーツケースを無意味に転がす。
その横の篭の中には璃子と同じく出張する予定の俺の衣服や歯ブラシが丁寧に置かれてて
『出来た嫁だよ。』
あとは小さなボストンバックに入れるだけになっていた。
迂闊だった。駐車場であんな話をしてしまったこと。
ちゃんと面と向かって今晩話すはずだったのに あんな形で耳に入れてしまってまた傷つけてしまった。
本来ならすぐにでも迎えに行かなきゃ行けないけど 明日は親父と地方に飛ばなければならない。
…竜兄も産まれたばっかで色々忙しいだろうからな
若い頃のように後先考えず突っ走れてたら良かったのに
東京と山梨…近いようで遠い距離
『…璃子。』
俺に迎えに行く資格はあるのだろうか…
何度も聞いている無機質な案内が流れるスマホを耳に当てながら 心の中で自問自答している自分がいた。
