続・あなたの色に染められて
第6章 すれ違い
『どうぞ。』
少しだけ心を開いた璃子は俺をホテルの部屋に案内してくれた。
ツインの部屋の使われていないベッドに腰を下ろすと 璃子は湯を沸かしコーヒーを淹れてくれた。
小さな手からコーヒーカップをを受けとると 差し出された手を覆うように握りしめ璃子の顔を見上げた。
『どうして何も言わず出て行った?』
駐車場での一件が理由なのは確かだろう。でも それ以上に何かあったはずなんだ。
『話してくれないか?』
コーヒーカップをサイドテーブルに置き 俺の隣に座らせて璃子の冷たい手を擦った。
ふぅと息を吐くと掌のなかの小さな手に力がこもる。
自分の気持ちを押し殺してしまうコイツが今必死にもがき苦しんでいる。
『大丈夫だから言ってごらん。』
どんな言葉が口から紡がれるのか俺こそ不安でしかたがないけど
原因が俺にあるのは間違いないから心を溶かすように力の入った手を優しく撫で続けた。
どれくらい待っただろう
淹れてくれたコーヒーから湯気も消えたころ 璃子は包み込む俺の手に視線を落としながら小さな声で
『…希くんの父親は…。』
『ん?』
やっと決心してくれたんだな。肩を動かすぐらい一度大きく深呼吸して
『和希くんの父親は京介さんなんですよね。』
言い終えた瞬間に重なる手にポタポタと流れ落ちる涙
前日にそんな話題が出たから璃子の思考は自然と決めつけてしまったのか
『俺の子なわけねぇだろ。』
首を振りまだ半信半疑な璃子を抱き寄せて
『もっと早く言ってやれば良かったな。ごめんな。』
結局泣かせてしまってたことに自分の不甲斐なさを感じ
璃子と同じように大きく息を吐いてから意を決するように瞳を見つめ
『…竜兄の子みたいなんだ。』
やっと伝えなきゃいけなかった言葉を紡いだ。
『…え。』
そりゃそうだよな。竜兄は家庭をすごく大切にしてる
でも璃子にすべてを話さないと俺たち先に進めない
『沙希の話が本当ならばだ。』
璃子はさっきよりも大粒の涙を溢しながら俺の瞳を覗き込み
『ホント?本当なの?』
何度も何度も俺の首を縦に振らせた。
『俺はウソつかないんだろ?』
安心したように繋がれた手を唇に押し当てて今度はおまえが首を縦に振るけど
『…でも。』
この話がそんなに簡単じゃないことに気付いた璃子は繋いだ手の力を抜いて首を横に振った。