続・あなたの色に染められて
第6章 すれ違い
「…竜兄の子みたいなんだ。」
ウソが紡がれることのない京介さんの唇から聞かされると安堵からか涙が一気に溢れ落ちた。
私と知り合う前の話だからどうこう言える話ではなかったけど
和希くんが京介さんの子だと考えるだけでも怖かった。
だって京介さんは酒蔵の伝統を継承していかなければならない次期社長候補
それなのに愛する人の子をいまだ授かることが出来ない私…
ならば酒蔵の将来ために潔く身を引くしかないと決心していた。
私の早とちりだったんだ…
私の大好きな大きな手がギュッと力強く包み込んでくれると私はその手のぬくもりを唇に寄せた。
球場で幸乃さんもたちも「有り得ない」と笑い飛ばしていたのにね
それなのに勝手に勘違いして逃げるように飛び出してしまった臆病者の私
最初から言葉を交わしていればこんなに傷つけ合うことはなかったのに
「俺はウソつかないんだろ?」
出会ったばかりの頃に私に言ってくれた言葉は彼のストレートな気持ちの現れだったはずなのに その言葉をいまだに素直に受け止めきれなかった私は京介さんが言うように
本当に面倒くさい女…
でも、それで良いってことだよね。
いつか大好きな彼との赤ちゃんを授かって酒蔵をもっと盛り上げていければ…ってやっと心のそこから思えたのに
え…っていうことは…
『香織さんは?』
『おまえが消えた日の夜中に女の子を産んだよ。』
…そういうことか
お互いを思いやりお手本にしたいような素敵な家族だったのに…
五体満足に産まれてくれば性別なんてどっちでもいいと 香織さんのお腹を擦りながら目を細めていた竜介さん
『…でも。』
もし本当に竜介さんの子だったら和希くんは長男ということになる。
だとすると…
『酒蔵を次ぐ権利があるってことですか。』
溜め息混じりにコクリと頷く京介さんを見上げると この事を私に話さなかった理由がわかった気がした。
『もし その話が本当だったら竜介さんと香織さん…』
そうなんだ…
その場かぎりと割りきってお互いが肌を重ねたとしても秘め事には大なり小なりリスクは付き物なのに
『DNA検査はもう…?』
『まだだ。』
そんなことわかりきっていたはずなのに…
『ごめんな。おまえにまで背負わせちまって。』
引き寄せられた彼の胸に素直に寄り添うことの出来ない私がいた。