続・あなたの色に染められて
第6章 すれ違い
『別れねぇからな。』
良からぬことを企みはじめたおまえに俺が気付いていないとでも思ったか
『俺は和希の親にもならねぇし沙希のダンナにもならねぇ。』
大きな目と小さな唇を見開き見上げるおまえは
『誰に何を言われようが璃子を手離す気はねぇから。』
絶対に酒蔵の将来や竜兄たちを優先して自らが苦しむ道を選ぶってわかってたから伝えることが出来なかったんだ。
『…京介さん。』
やっと廻してくれた華奢な腕に俺は涙が出そうになる
『いつも言ってるだろ?オレはおまえがいないとダメなんだって。』
どんなに俺が言葉を紡いでもおまえはいつも不安になるよな。
『子供がいなくたっていい…おまえが俺の横で笑ってくれてたらそれだけで…本当にそれだけでいいんだ。』
その華奢な腕が泣き声と共に俺の体を締め付ける。
俺の気持ちが伝わるまで何度だって言葉を紡ぐし壊れるほど抱きしめてやるよ。
だっておまえはオレが愛したただ一人の面倒くさい女だから…
***
…いつだってそう
その余裕の笑みで 私の思惑や不安をいとも簡単に打ち砕くんだ。
京介さんの言うとおり私はやっと手にいれたこの幸せを自ら手放そうとしていた。
だって 私にはこれからの酒蔵を背負っていく宝を産める確証がないんだもの。
それなのに京介さんはこんな私をどんなときでも大きな心で包み込んでくれて
『…ったく おまえは素直に俺に愛されてればいいんだよ。』
『…京介さん。』
私はいつもこの大きな腕に包まれて 逞しい胸に寄り添って歩んでいける。
『竜兄にはオレから話してみるから。』
きっとこの問題に解決策なんてない。
若気の至りとはいえ必ず誰かが涙を流すことになる。
『香織さん大丈夫かな。』
『許してもらえるまで竜兄と一緒に何度だって頭を下げるよ。』
でも、それが次に繋がる涙なら流さなきゃいけないのかもしれない。
『だからおまえは…。』
『はい…京介さんを支えます。』
やっと素直に愛しい人の瞳を見つめることが出来た。
『…璃子。』
久しぶりに重なる唇は京介さんの心とは正反対に冷たい唇で
『もっと口開けろって。』
『…んぅ。』
野球の神様に永遠の愛を誓ったのは一年前のこと
そう…もう少しで私たちは手を取り合って一年になる。
『愛してるよ。』
これで少しは夫婦らしくなったかな…