テキストサイズ

修練の鏡と精霊の大地

第15章 元の世界

 コウヤは聞き逃さなかった。


「はぁっ! 関西? お前、さっきそんなこと言わなかったじゃないか」


「どこにいるかまでは、知りませんよぉ……」


「どこだ? 大阪か?」


「そこまでは本当に知らないんです……普段は関西であっちこっち行き来してるとか……それくらいしか聞いてません。すいません……」


 老人は四つん這いになりながら、泣き出した。


 コウヤは鏡で、自分の顔を写して見た。


「チッ、こいつはただの鏡になったか……お前、これを返したら一千万貰えるんだろ?」


 コウヤは老人の前で、鏡をチラつかせる。


「はい、すいません、すいません、返して……」


 老人は何度も土下座をして、頼みこんだ。


 ある意味、この老人もいろんな苦労をしてきたのだろう。


 なにも解決案が出ないまま、なにもかもを失って、ホームレスになった。


 そして、元締めとなっている人物に、大金をやるからと言われ、この仕事を引き受けた。たしかに、人に鏡を渡すだけで一千万だったら誰でもするだろう。


 土下座なんて、プライドを捨てるか、本気でやってなきゃ、いくらでも出来る。


 真似ごとの土下座くらいなら、やれなくもない。


 コウヤはそう思った。


「ほらよ」


 コウヤは鏡を差し出した。自分にはもう、用はない鏡だ。


 老人はあわてて鏡を受け取った。


 それを胸にしっかりと抱き締めると、声を出してなきだした。


「鏡は返してやる。ただ、俺がその親分を倒したら、悪く思うなよ」


『プルップルップルップルップルッ、プルップルップルップルップルッ』


 携帯が鳴った。


 見ると「桃尻」と表示が出ている。


 あわてて電話に出る。


「はいはーい! さっきはすまない。なんか押したみたいでさ」



ストーリーメニュー

TOPTOPへ