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修練の鏡と精霊の大地

第19章 移動、そして集結

 波が不自然に、小刻みに揺れる。


 赤く変色した空を反射しているのか、海の色も赤く染まっていた。


 コウヤは、鏡を持って逃げていった老人を再び捕まえ、海岸に引きずり出していた。


「おい、これはどうなってんだ?」


 老人の右腕を背中に曲げ、手首を捻りながらグイグイと締め上げる。


「あぎゃぎゃぎゃぎゃーーっ!! やめてくれっ!! わし関係ないぃーっ!!」


 日常では味わうことのない、攻撃による関節の痛みに、老人は叫び声を上げる。


「なにが痛いだ!! お前、俺の師匠の設定だろっ!!」


「それは、警察が来た時の言い訳用に、あんたが勝手に決めた設定じゃろうがっ!! わし、プロレスなんぞ知らんわっ!!」


「じゃあ、教えてやるよ!! その前にこの赤い空はなんなんだ? 知ってるだろ?」


 コウヤはさらに強く、老人の腕を締め上げる。


「ぎゃーーっ!! 折れるからやめてくれぇっ!! だから、わしは鏡だけの受け渡し役だけなんじゃ!! 後は、それらしい講釈を教えてもらっただけなんじゃって!!」


「本当か? お前が本当のことを言わないと、俺はただのホームレス狩りをしている悪ガキになってしまうんだぞ」


「もう、なっとるじゃないか!!」


 老人の涙ながらの叫びに負け、コウヤは手をはなした。


 右の肩関節を抑えながら、老人はうずくまった。


「でも、その鏡を持ってたら、受け渡しにきた、その張本人のやつが来るんだろ? そいつなら、これがなにかわかるのか?」


 コウヤはしゃがみ、老人の手を揉みほぐしながら言った。


「そんなもん、わしが知ってるわけないじゃないか……それに、わしはあんたの敵やないで、あんたプロレスラーやったら、素人相手に手を出したらダメなんじゃないのか?」


「いや、あんた俺の師匠っていう設定だから、弟子の師匠越えと考えたら、多少は本気を出さないと……」


「あんたの勝手な設定にわしを引きずり込むな!! わしは、プロレスなんて、ジャイアンツ馬場やアンコモチ猪木しか知らんし」



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