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修練の鏡と精霊の大地

第1章 黄昏時に出会して……

 球也は家にも帰りたくはなかった。


 家には超がつくほどの虎ファンの両親がいる。


 サラリーマンの父、球蔵(きゅうぞう)は毎晩、部活の事を聞いてくる。


 母親の雛恵(ひなえ)は、甲子園で活躍して、ドラフト指名されることを期待している。


 一家団欒になると、今の球也にとっては苦痛で、耳をちぎりたいほど鬱陶しい。


 中学三年の弟、優也(ゆうや)は、野球部ピッチャーで、練習試合でノーヒットノーランを達成してるというから、兄にとっては立場が悪いうえ、目障りな存在だ。


 しかも、弟が野球を始めたのは兄の影響が大きく、野球の基本も兄から教わっている。そんな弟も、あのエラーを見てから、軽蔑の眼差しビームを放ってきているから始末が悪い。


 空は真っ赤に色付いてくる。


 不吉な黒い鳥が『カァーッカァーッ』と、夕焼けを背に羽ばたいていく。


 草むらに捨てられた、一度濡れてから乾いて、パカパカになったエロ本にも見向きもしない。


 昨年までは「おおぉっ!!」と雨水が染み込んでいても眺めていたものだが……。



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