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Dioic

第4章 あか


彼女の、手が離れた。
ぼくの顔を覆っていた手が。

なんだ?
ほんとうに手がある。
少し揺れている髪が見える。

彼女は幻想だ。
ぼくの脳の中でしか生きていないし存在していない。
目に見えていてもそれはいないんだ。

なのに、なんでこんなにリアルなんだ。
指の立体感。
頭の上に感じる乱れた呼吸。
さっき顔を伝っていた涙。
揺れる髪の匂い。

ぼくから離れた手が顔を挟む。
そして、上に向けた。

それは強制的で。
いつもの彼女はそんな強引ではなかったのでびっくりした。

目に飛び込んできたのは、ぼくの顔。
少し目が赤い。さっきまで泣いていたからだろうか。

軽度の色素沈着でキャラメル色の瞳がぼくを写す。
雪のように白くて透けている肌は人形のようで傷一つない。
母親譲りのなんとも言えない綺麗な顔は、まさにぼくと同じ。


薄く、桃色の唇が開く。


「純」


ぼくと似ている声で呼ぶ。


「ねえ、純」


というか君も純じゃないか。


「もうっ!返事はっ?!」


怒るなよ、面倒くさい。



「っ・・・じゅ、じゅっんっ!」


「・・・・・はあ」


「っ!純?」


「本当に、女って、面倒」


「あなたが返事をしないからよ」


「だって、ぼくにぼくの名前呼ばれるって変な感じ」


「変な感じって失礼ね。わたしだって呼びたくないわ」


「声も同じだし、顔も同じ」


「純」


「・・・しつこいなぁ」


「・・・純」


「・・・・はいはい」


「純」


「なあに?ぼく」


「純、よ」


「だからぼくでしょ」


「わたしはぼくじゃないわ。純よ」


「紛らわしいな」


「わたしだって嫌よ。違う名前が欲しいくらいだわ」


「お前ぼくの中の人格のくせに生意気だな」


「人格?失礼ね。わたしはちゃんと一人として存在しているわ片割れなだけであってわたしとあなたは本来一つなのよ」


「でもそれって、二重人格ではないってことだよね」


「そうよ。私たちは別々に存在していない」


「でも、意思は別にあるんだ」


「そうよだって、」



彼女はニヤリと笑う。
ぼくはそんな性格の悪そうな顔はしない。



「男と女ですもの」

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