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月の降る夜に

第1章 その出会いは日常の崩壊

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本紫に染まろうとする空の片隅に朱色の線が一筋。
吐く息が白い。

本格的に冷えてきた。

奇襲をしてこいと兄から言われて隊を引き連れてきてみたものの、正直持て余していた。

今まで自分の腕を磨くばかりで命令の出し方などは学んでこなかった。

己一人だけなら、国でも指折りで強いという自負がある。だが、戦というものは将が自ら先陣を切るものではない。

緻密な策と戦法も重要だ。

それがなければどれだけ強い軍隊でも、その力を出し切れない。

だが肝心のそれを学んでこなかったのだからお笑い種だ。

四十二人の皇子を抑えて王位につきたいと望んでいるのにこんなことでどうするのか。

ディスラでは皇帝になれなかった皇子は全員処刑だ。

断頭台で首を切られるか、縛り首になるかが末路。

そんなのごめんだ。

手柄を上げて、大臣達の支持を集め、父、皇帝に世継ぎとして指名される、というのが俺の予定。

二十六番目の皇子というかなりどうでもいい順番で生まれ、更に母はただの妾(ジュリジェ)といった立場の俺は父の記憶の片隅にもいないだろう。

そんなことわかっている。

でも、一派ひとかけらに処刑されて終わりなんて性に合わない。

俺は王になる。

どんなことをしたって。


見据える水平線は一際明るく輝いて紫に染まった。

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風に乗って馬のいななきと武器を運ぶ音が聞こえてきた。

ニヤリと片頰を持ち上げる。

「篝火を消せ。………野営地が近い。攻め込むぞ」

頭を隠している布の余っている部分で顔を隠す。

じりじりと気取られないよう進みつつ敵の状況を探った。

(大きい天幕が一つ………大将はあそこか。で、小さいのが二つ。見張りについている兵は一人ずつか。これは思ったよりも小隊だな)

だが、敵を見つけるのだってこれが初めてなのだ。

これを逃したら次はいつになるか。


「……かかれ」

旗を上げさせることで合図を出す。

「大きな天幕には手をつけるな!他は燃やそうが略奪しようが構わん!行け!!」

先陣を切ったのは騎馬の組。それについで駱駝、徒士、と続く。

流石に兄に借りた隊なだけあって略奪を行う者はいなかった。

それどころか、誰一人殺さないようにしているようだ。

小隊で、十数人もおらず、相手が一方的に不利であることに気がついたのであろう。

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