僕は君を連れてゆく
第22章 ネクタイに指をかけたら
「少し聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「あとにしてくれ。」
「今じゃないとダメです。」
翔が戻ってきた。
息を切らして。
「ちょっと、待て。」
俺は資料庫に備え付けの電話で電話をかけた。
「あ、俺だ。俺と櫻井は少し席を外す。見ておきたいものがあってな…あぁ。そうだ。頼んだぞ。」
これで、少し時間を確保出来た。
「なんだ?」
振り向いたら翔が俺のネクタイを手に取った。
「この、ネクタイ…俺の?」
そう。
この、ネクタイは翔のだ。
翔がうちの、面接に来た日にしていたネクタイ。
ボルドーにゴールドのラインが細く入っている。
濃紺のスーツは翔の白い肌をさらにキメ細やかに見せて、首もとを飾るネクタイが翔の唇と重なってとても綺麗だったんだ。
翔に言わず、勝手につけてきてしまったんだ。
「ごめん…つい…」
翔の瞳に吸い込まれるように、その、唇に引き寄せられるようにキスをした。
「しょ…ん…」
ネクタイに指をかけ、それをほどく。
「ワイシャツのボタン…取れちゃいましたか?」
相葉にされたことを思い出して恥ずかしいのと申し訳ない気持ちが混ざりあって…
「ごめん…なさい…」
どうしてだろう。
普段は俺が上司なのに。
二人きりになって、翔のこの、瞳を見ると敬語になってしまう。
俺を欲しい、そう、その、瞳が訴えてくる。
その瞳を見れば見るほど俺の体の中から沸き上がってくる熱。
全てを見透かされてる。
俺の全てを。
「あぁ…しょう…」
「なんだよ?」
昨夜、つけられた紅い痣。
俺が愛された証。
「つけて?もっと…」
「ここ、どこだか、分かって言ってる?会社だよ?」
そんな、耳元で話されたら…
わかってる。
ここじゃ、ダメ。
でも…
俺は翔のスーツのボタンを外して脱がせた。
震える指ではなかなか上手くいかない、ワイシャツのボタン…
「翔にも…つけたぃ…」
ボタンを外すのももどかしくて、裾からまくりあげ
脇腹に舌を這わす。
「ん、すき、翔がすき。」
チュッと唇を離すとそこに、俺が翔を愛する証が刻まれた。
見上げると翔は息を荒くして俺を見下ろしていて…
「煽ったのは…あなたですよ?」