僕は君を連れてゆく
第22章 ネクタイに指をかけたら
「大丈夫?」
「…」
「こんなとこで…すいません。止められなくて…」
「いや、俺こそ…」
お互いが欲望を吐き出して、息を整えたら
猛烈に恥ずかしさが俺たちを包んだ。
「あの、主任…その、ネクタイ似合ってます。スゴく。」
俺の手には翔のネクタイが。
全てが気だるいけど、まだ、ここは社内で。
一応、連絡をいれたけど、今、よく考えれば携帯も、もちろん鞄もデスクに置いたままで…
ナニも持たずに何やってんだ?と言われかねないことに気が付く…
「本当に悪かった。勝手に…」
ネクタイを手にして改めて謝った。
「それ、俺がこの会社、受ける時に気合いをいれるつもりで買ったんです。少し、見栄張って…」
と、鼻の頭をポリポリと掻いた。
「翔に…すごく似合ってるよ。」
俺は…
翔が好き。
「でも、なんで?」
「社内では上司と部下にならなきゃならなくて…スーツ着て眼鏡をしてみんなをまとめなきゃならない。でも、俺は翔を…翔の…」
「主任は俺を?俺の、なに?」
「…翔を…」
「聞きたい…」
「翔は俺のだって…ネクタイは、その…」
そこまで言ったら翔が俺を抱き締めてくれた。
頭を撫でて、背中をさすって…
「朝起きると主任、いつも、もう着替えてるじゃないですか…あれ、スゴく寂しいです。」
「え?そうなの?」
「昨日、あんなに可愛い主任は俺の妄想かな?っていつも思っちゃう。」
「可愛いって…俺は君より年上だ。」
「でも…相葉が主任を可愛いって言い出して…俺の主任なのにって。俺しか可愛い主任を知らないはずなのにって思って。」
男同士だし、俺は年上で君の上司だけど、君の方がずっと大人だ。
俺が話しやすいように自分の気持ちを話してくれてるんだと思う。
可愛い、可愛いっていうのがよくわからないけど、君が、翔が可愛いって言ってくれるならそれでいい。
「俺、可愛いの?」
翔は首を大きく上下に動かして
「うん!うん!」
「どこが?」
よく、わからないけど…
「それは…俺だけの主任なんで。」
翔だけの俺。
なんか、恥ずかしいや。
「そっか…」
もう、それだけでいい。
本当の俺を知っているのは翔だけ。
本当の俺を見せるのも翔だけ。