僕は君を連れてゆく
第22章 ネクタイに指をかけたら
早く、翔と二人きりになりたかった。
普段やらないけど助手席に翔を乗せた。
翔は俺に言ってくれた。
寂しいって。
だから、俺も素直になろうと思う。
「こんな会社のそばで大丈夫ですか?」
「言い訳なんてあとからいくらでも作れるだろ。」
「そう…ですよね…なんか、嬉しいです!」
この笑顔だ。
俺は翔と呼んだり櫻井と呼んだり。
翔も主任と呼んだりかずさんって呼んだり。
それは自分たち、俺たちのなかにあるボタンが切り替わっているんだと思う。
俺たちが暮らしやすいように。
俺たちが俺たちのためだけにあるように。
俺にとってスーツ、眼鏡、ネクタイは仕事するときな欠かせないもので。
これがあるから自分になれる。
自分の立場をわきまえて仕事ができるんだ。
冷たいとか、静かとか言われてるのはわかっている。
でも、これが、仕事する俺なんだ。
それを翔はわかってくれている。
そして、このネクタイ。
欲張りになっているのかもしれない。
このままでいい、このままでいたい、と思う自分。もっと、愛されたい、もっと、愛したい。
そんな気持ちが。
「かずさん、こんど俺、かずさんにネクタイをプレゼントしたい。」
俺の自宅に帰ってきてお酒の準備をしていたら翔に言われた。
「ネクタイを贈る意味、知ってますか?」
「まぁ、聞いたことはあるけど…」
頬が赤くなるのがわかる。
「かずさんに俺のネクタイをして仕事をしてほしい。」
スーツのなかに閉じ込めた翔の温もり。
翔の匂い。
ネクタイで隠した、翔に愛された証。
そう。
俺はお前のもの。
このネクタイにお前の、翔の指がかけられたとき
俺は、俺になる。
「欲しい。しょう…」
「また、そんな顔して…」
「だって…」
我慢してんだ。
翔の首に、腕を回す。
「優しくしてやりたいのにっ!」
翔の舌が、俺の歯列をなぞっていく。
舌ごとしごかれてもう、めまいがする。
「あぁぁ、好き、しょう…」
スーツという戦闘服を脱いで。
ネクタイというアイテムで俺を縛る。
俺たちは愛し合う。
【END】