僕は君を連れてゆく
第31章 熱視線
雅紀にも気づかれてたか。
「だよな…気になってさ…踏み込みがさ…」
「分かるよ!じゃぁ、俺が翔ちゃんのグローブ磨いていい?」
雅紀も同じだ。
雅紀も自分の道具は自分で磨いて、不具合が出れば自分で直す。
それに、礼儀正しくて、とにかく、自分に厳しい人間だ。
身体の線はまだまだ細いけど筋肉もしっかりあるし、手足が長い。
ピッチャーには持ってこいだ。
でも、それも高校まで。
「ねぇ、覚えてる?翔ちゃんがキャッチャーやるって言ったときのこと?」
雅紀は俺の使ってるタオルの反対側を使って俺のグローブを磨き出した。
「小5の時だろ?」
「そうそう!あん時の翔ちゃん、俺、すっげぇ、覚えてんだよね…」
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「今年最後の大会、雅紀にピッチャーを任せようと思う!」
それは、小学校のクラブチームで坂本監督が言った言葉だった。
5年生になったばかりの俺たちはレギュラーになれるのだってそう簡単なことではないのに、坂本監督はピッチャーを5年の雅紀に託すと言った。
6年生たちは納得がいかないようで、坂本監督に詰め寄った。
「なんで、相葉なんですか?」
「コントロールだ。腕の振りがしなやかで左右も上下にも細かく投げ分けられる。」
「でも、この大会は…俺たち最後ですよね?俺たちずっとやってきたのに…最後が相葉って…」
6年生の気持ちも、今考えれば、わからなくもない。
ずっと、チームを引っ張ってきてくれたのは6年生だった。
小学生最後の大会で、まさか、先発ピッチャーを譲るなんて…思いもしなかっただろう。
「先発を任せる!ということだ。亀梨にはリリーフに入ってもらうことになる。最後の大会で勝ちたい!と言ったのはお前らだ。勝つために考えたのがこのメンバーだ。」
坂本監督は言い切った。
「俺はやだ。亀以外の球を受けるなんて嫌です。」
亀梨先輩とバッテリーを組んできた、上田先輩が涙を堪えて言う。
「じゃぁ、お前は外れろ。櫻井!お前がやれ!」
「えっ?俺ですか?」