僕は君を連れてゆく
第31章 熱視線
キャッチャーの経験なんてない俺になぜ、白羽の矢が立ったのか…
キャッチボールをいつも、雅紀と組んでるから?
まさか、嫌がらせ!!
「お前は冷静に試合を見ることが出来る。肩も強いし。キャッチャーをやらせようと俺はずっと考えていた。相葉のクセや気持ちのコントロールもお前なら出来るだろ?」
坂本監督が言った。
俺に出来るかな?
「無理ですよ!翔には!」
上田先輩が言う。
「それでいいです。」
亀梨先輩が大きな声を出した。
「監督の意見に賛成です。ただ、キャッチャーは上田がやるべきです。翔にはこれから上田が教えていって来年、出来るようにしていく方がいいと思います。」
上田先輩は口を一文字に結んで涙を堪えている。
坂本監督は亀梨先輩の頭を撫でた。
「意見して、すいません。」
亀梨先輩も泣きそうだった。
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「あん時の亀梨先輩と上田先輩、カッコ良かったよね。」
「うん。あれで翔ちゃんがキャッチャーやって試合やってたら、勝てなかったよね。」
「そうだな…上田先輩が盗塁二回、刺したんだよな。雅紀に声をかけるタイミングも監督がピッチャーを雅紀から亀梨先輩に変えるタイミングも最高だったよな。」
「本当に…先輩たち、今、なにやってるんだろうね?」
俺は弛んだ留め具をつけ直して、レガースを足に当てた。
「っうし!これくらい締めないとだよな…」
「こっちも、どう?雅紀が愛情込めて磨きましたよ!」
と、俺のグローブにキスするフリをした。
「なにやってんだよっ!」
部室内を片付けて、部室のドアを開けた。
温い風が俺たちを包む。
日が長くなってきている。
二人で並んで歩く。
雅紀はよく、素振りしたり、投球フォームの真似をしながら歩く。
今日もそれは変わらない。
「内角がな…」
そう言って、右腕を振り下ろした。
「なぁ、雅紀…爪のケアちゃんとしろよ?」
人差し指の爪の先が割れてることに気がついた。
「やっておく!大丈夫!」
雅紀は俺にピースサインした。