僕は君を連れてゆく
第31章 熱視線
「い、いや、起きてたよ…っつ!!!」
思わず、股間をギュッと握ってしまった…
『大丈夫?どこか痛めた?』
「ううん…大丈夫!それより、どした?」
痛かった…
まさか、電話してくるなんて…
俺の右手、バカ野郎!
『あ、うん…眠れなくて…』
「俺も…眠れない…」
『翔ちゃんが?あの、翔ちゃんが?』
「それ、どーいう意味だよ!」
『え?言葉のままだけど?』
「はぁ?お前、ふざけんなっ!」
二人で笑った。
『翔ちゃん…キャッチボールしない?』
「うん、俺も思ってた!」
『じゃぁ、いつものとこね?』
「おう!」
スマホを耳から離して通話終了と浮かび上がる文字を見つめる。
きっと、今頃、鼻唄を歌いながら、グローブを引っ張りだしてるところだろう。
頭に思い描く雅紀の姿に自分を重ねた。
「俺もじゃん…」
明日、使うグローブは今日、雅紀と二人でいつものように部室で残り練のあと磨いてきた。
だから、中学の時に使っていたグローブを出した。
「懐かしいな…」
俺のグローブはあの、小学5年生の時からキャッチャー用のグローブしかない。
あの日から雅紀の球を受けるために練習してきた。
「そうだ…これ…」
中学まではファーストとキャッチャーのミットは同じでよく、間違えた。
ミットを開くと親指のところに“せかいへいわ”と
平仮名で書いてある。
「フハハ…」
この“せかいへいわ”は雅紀が書いたんだ。
なんで、“せかいへいわ”なんだろう?
野球になにも関係ないけど。
「聞いてみるか…」
Tシャツじゃ寒いかな?と思いジャージを羽織っていくことにした。
部屋の時計を見たら、雅紀と電話をきってから
ずいぶん時間がたってることに気がついた。
「やっべっ!」
慌てて、でも、静かに階段を降りた。