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僕は君を連れてゆく

第31章 熱視線


「…………」

「…………」

負けた。

俺たちは甲子園には行けなかった。

雅紀は涙をボロボロとこぼして泣いている。

監督も泣くのを堪えていた。

仲間もみんな。



呆気ない終わりだった。

9回裏、3対3の同点。
相手チームの攻撃。
逆転のランナーが三塁にいた。
一、二塁は空いていて、次の打者は2番バッターの村上だった。
雅紀はこの試合で1打席目はファーストゴロ。
2打席目はゲッツー、3打席目は三振、4打席目も三振と打ち取っていた。

それに、この回を抑えれば次の俺たち攻撃は1番からの好打順で俺、雅紀にも打席が回ってくる。

村上はやけに落ち着いて、打席に入った。
俺と雅紀、主審にペコリと頭を下げて。
それはいつもと変わらない。

1球目。外の高めで外す。
ボール。

2球目。同じく外の高め。
ボール。

俺は三塁のランナーを見た。

この場面は歩かせたっていい場面だ。

塁は空いてるんだから。

雅紀にも“歩かせよう”とサインを送る。

雅紀は頷く。

3球目。
同じく外の高め。
村上はバットを出してきた。
ストライク。

4球目。
同じ外の高め。
雅紀の球はスッポ抜ける感じで構えたところよりも
高めにきた。

バットを振ってきたことに雅紀は動揺している。
俺はキャッチャーマスクを取って雅紀の顔を見た。

雅紀はペロっと舌をだした。

うん、大丈夫。

俺は頷いた。

雅紀にボールを返した。


………?
血…?

確認しなきゃ…

でも、雅紀はすぐに投球フォームに入って、
バッターの村上もバットを構えた。

そして、雅紀のボールを後ろに反らしてしまった。

その間に三塁ランナーが帰り、逆転された。

雅紀は項垂れた。

負けた。

相手チームはベンチから出てきて村上に抱きついている。

歓喜の涙を流していた。

俺はそれをただ見ていた。

夏が終わった。

俺と雅紀の。

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