僕は君を連れてゆく
第31章 熱視線
「翔ちゃん…」
「うん?」
「翔ちゃん…」
「うん。」
あの大会のあと、俺たちは引退した。
引退してからは受験、一色の生活になった。
今日は土曜日だけど、学校で英語の試験対策の講義があって、それに出た帰り。
あの日。
負けた日。
誰も俺を責めなかった。
俺は泣けなかった。
俺が泣くのは間違ってると思ったから。
雅紀は甲子園には出れなかったけれど数校の大学から野球をやらないか?と誘われていたが、全てを断った。
「雅紀。」
「うん?なぁに?」
雅紀は小石を蹴りながらポケットに手を突っ込んで歩いている。
俺はずっと雅紀に言いたかった。
でも、なかなか、言えなくて…
何も言わない事を不思議に思ったのか、雅紀が
振り返った。
雅紀と目が合う。
目尻に皺を寄せて、白い歯を見せた。
「…雅紀…ごめんな。俺、俺のせいで…」
泣いてはいけない。
「翔ちゃん…」
雅紀は俺に駆け寄ってきた。
そして、俺の両手を握った。
「お前のボールを受けるのは俺なのに…あんな、大事な場面で…ごめんな…」
今、思い出しても悔しくて。
唇が震える。
「あの時、謝れなくて…キャプテンなのに…」
「翔ちゃん…楽しかったよね?」
雅紀は両手で握りこぶしを作り重ねてバットを持つように素振りして見せた。
そして、いつも来ていた公園に来た。
雅紀がいつものベンチに座った。
俺も少し、間を空けて座った。
「俺も謝んなきゃ…」
「え?」
「決勝の前の日の夜、ここでキャッチボールしたの覚えてる?」
覚えてる。
「キャッチボールして帰って…俺、やっぱり眠れなくてさ…」
申し訳なさそうに眉毛を下げる。
「思い出してた…翔ちゃんのこと。そうしたらもっと、眠れなくてさ。」
俺はどういう意味かわからなくて首を傾げた。
「俺、翔ちゃんと東京に行きたい。」
「えっ?」
「これからも、もっと、ずっと翔ちゃんと一緒にいたい。意味、わかる?」