僕は君を連れてゆく
第31章 熱視線
「一緒に?」
「なんで、俺、こんなに野球が好きなのかな?って思って。そうしたらさ、翔ちゃんなんだよ。翔ちゃんがいるから野球やってきたんだ。」
雅紀はそう言うと立ち上がった。
夕陽を背にした雅紀。
「翔ちゃん、一緒に行こう?」
それは、
それって…
「あの日、負けたのは悔しい。もっと、翔ちゃんと野球したかったから。でも、それは翔ちゃんの責任じゃないよ。翔ちゃんがまた、外ってサインくれたじゃん?頷いたけど俺、打たれるんじゃ…って…」
雅紀はうつむいて握った拳が震えている。
俺は負けたことと、雅紀ともう野球が出来ないことが悲しくて。
謝るどころか、雅紀の話すらきちんと聞いてやらなかった。
自分のことばかり考えてた…
「翔ちゃんが自分、責めてるのわかってた。でも、なんて声かけていいのかわかんなくて…翔ちゃんはいつも俺を励ましてくれてのに…苦しかったよね?ごめんね。」
そう言ってあの時と同じように涙をボロボロこぼして泣いた。
「雅紀…ごめん…」
俺は雅紀を抱き締めた。
震える肩を。
あの時、泣いてる雅紀を見て抱き締めてやりたかった。
でも、出来なかった。
「ごめんな…」
雅紀はいつでも、俺のことを考えていてくれて。
優しくて涙もろい。
だけど、それは相手の気持ちに寄り添いすぎるからで。
俺の背中に雅紀の腕が回った。
少し、遠慮がちに。
俺の肩が雅紀の涙で濡れる。
「翔ちゃん…」
「雅紀…」
目線を合わすと俺たちは沈んでいく夕陽に引き寄せられるようにどちらともなく、目を閉じて、唇を重ねた。
雅紀の唇も、俺の唇も震えてた。
「翔ちゃんの唇、カサカサ。」
「ん。」
俺はもう一度、雅紀を抱き締めた。
言葉なんていらない。
そう思えた。
だけど、それじゃダメだ。
きちんと、伝えないと。
「雅紀。少し、考えさせてくれ。俺、どうしたいのかちゃんと考えるから。」
お前と、雅紀と
これからも一緒にいたいから。
きちんと、考えたいんだ。