僕は君を連れてゆく
第31章 熱視線
それは、グローブ。
「懐かしい…」
決勝の前の日に使ったグローブ。
「また、やろうぜ?キャッチボール!」
「これ、キャッチャーミットじゃん!」
そう。
俺にはこれなんだ。
「雅紀、これなんで?」
俺は雅紀にずっと聞きたかったことがあった。
“せかいへいわ”
と、書かれた俺のキャッチャーミット。
だいぶ、ボールで擦れて消えかけてるけど。
「え?なんでって?」
「なんで、“せかいへいわ”なんだよ。野球、関係なくない?」
「どうしてだっけ?忘れちゃったよ…」
雅紀は照れくさそうに笑った。
そして、グローブをまたバックに入れようとするからそれを制止した。
雅紀の両手の上に俺の両手が重なって…
ギュッって雅紀の両手を握った。
雅紀が俺を見たから、顔を近付ける。
雅紀は目を閉じた。
綺麗な顔だ。
3ヶ月ぶり。
パチクリと閉じていた瞼が開いた。
「え?」
「え?」
「ちょっと!何、見てんの?」
頭から湯気が出そうなくらい顔を真っ赤にする雅紀。
「いや、綺麗な顔だなって…」
「え?」
もう!とか、バカ!とか言いながらギュウギュウ、荷物を押す。
「早く、行こ!もう!」
トランクを閉めて、運転席へ回る雅紀。
俺もあとを追って助手席へ座る。
「誰かに見られるかもじゃん!」
「見られないとこならいいの?」
雅紀は茹でダコみたいになってる。
「なんか、翔ちゃん変わった!前はもっと…」
「もっと、何だよ?」
「だって、そんなカッコいいことばっかり言うなんて、ズルいよ…」
ハンドルに顔を埋めていく雅紀。
耳が真っ赤だ。
俺は真っ直ぐで仲間思いな雅紀に惹かれた。
バッテリーを組んで俺を信じてくれる素直な心、
真面目に練習に取り組む姿勢。
たくさんの雅紀を見てきた。
でも、まだ、知らない雅紀がきっといるんだ。
「そんなに見ないでっ!」
「雅紀?」
雅紀が俺を見つめる。
「翔って呼んで?」
「あーもう!なんで、そんななの!」
これからも、もっと好きになる。
「なんか、熱い!翔ちゃんの視線が熱い!」