ガラスの靴がはけなくても
第1章 眠れぬ夜
窓を開けて、外の冷たい空気を吸い込む。
「呼んでた」
医務室で寝ていた時にと、答えをくれても、それにどんな反応をすればいいか分からない。
興味本位で聞いているのだとしても、今その話題を他人に触れられたくなかった。
自分でも受け止めきれてないのに。
これが数日たった後ならば、きっと『ただの元彼です』と何でもない顔をして言えていたと思う。
だけど、まだ今の私では何でもないフリをした自分を作れない。
"今の関係"を口にしてしまえば、人に言ってしまえば……
本当に終わっているんだと実感するようで怖いんだ。
気付かないうちに名前を呼ぶほどに、まだ想っている相手をすぐに過去にすることが出来ない。
「あー…悪い。今のはからかったわけじゃない」
バツの悪そうにそう言う部長に、私は何も言えなかった。