ガラスの靴がはけなくても
第1章 眠れぬ夜
信号待ちになり、取り出した携帯灰皿に煙草を押し付ける部長。
その様子を見てから、また窓の外へと目を向ける。
「三年付き合ってたんです。だけど、別れ話は三分くらいなものでした」
私が話したのは『分かった』の一言だけ。
「私…いつも自分が思ってること上手に伝えられなくて」
「うん」
「だから、嫌だって言えなかったんです」
「うん」
短い返事に私の話を聞いてくれてるんだと安心する。
「付き合い始めた頃はとにかく必死で。服装だって話し方だって彼に合わせて、どうしたら釣り合えるのかばっかり考えてた。そしたら、いつの間にか彼の"彼女"って言う自分を作ってたんですよね」