ガラスの靴がはけなくても
第10章 ガラスの靴がはけなくても
「あっ、時間ギリギリですよ!」
「あら、ほんとね。気候がいいからゆっくりしちゃった」
二人の声に慌てて会社に戻ると、フロアの入り口の手前で私達の姿を見つけ仁王立ちをしている人物。
「こら!お前ら5分前にはちゃんと戻れっていつも言ってるだろ!ここは会社だぞ!」
その姿と怒声に、三人揃ってビシッと姿勢を正しごめんなさいと謝り、駆け足で入り口へと向かう。
お怒りの部長様は私が通り過ぎるその瞬間ーー、私の腕を引いた。
「今日は帰り待ってるから」
耳元では今怒ってた人と同じとは思えないくらいの優しい声。
ふわっと香るシトラスの香りにここが会社だと言うことを忘れかけた。
ポンポンと頭を叩いて私に背を向けて歩いて行くのはいいけど、
「なぁ~にが会社だぞよ!どっちが分かってないんだか」
「キャー!!私、部長のあんな甘い声初めて聞いちゃった!しかも頭ポンポン!」
しっかり見られてましたよ。他の皆さんにも。
近くにいた他の社員も私を見て笑ってるから、恥ずかしすぎてうつ向いて足早にデスクに向かった。
もう!信じられない!!
……なんて思いながらも実はちょっとにやけちゃって。
あぁ、本当に本当に。私、幸せです。