ガラスの靴がはけなくても
第2章 キスの温度
「なぁ、藤野」
クルクルと指に絡ませ肩下までに巻いた髪を弄ぶ。
「俺が何でお前にキスしたか分かる?」
思いも寄らなかった質問に固まった。
いくらこんなに意識しまくっていたって、なかったことにするつもりでいたから。
部長だってなかったことにするつもりでいたんじゃないかって思ってたから。
少し時間が経てば何事もなかったかのように、今までのように上司と部下として接することが出来ると思ってた。
いくら私の話を聞いてくれたからって、頭を撫でてくれたからって。
…キスしたからって、今までと何も変わらずに過ごしていくんだろうと思ってた。
だから、私がいることが分かっているのに関わらず部長が給湯室に入ってきた時も意味がわからなかった。
だけど、今はもっと意味がわからない。