ガラスの靴がはけなくても
第5章 赤のしるし
しん、と静まり帰った室内。
いつも仕事をしている場所なのに違う空間にいるみたい。
自分の心臓の鼓動がやけに耳につく。
どうかしてる。
寝ている彼にまでこんなに意識してるなんて。
部長のことばかりを考えている自分に思わず苦笑いを浮かべてしまった。
失恋したての私に優しい言葉をくれたと思ったら、突然キスされて、触れられて。
だけど、いくら失恋したタイミングだったからって、他の人に同じことされても今みたいな気持ちにはならなかったことだけは分かる。
「……ムカつく」
なんかムカつく。
いつの間にか私の心の中に入ってきて、掻き乱してく部長にも……
それに見事に振り回されてる自分にも。