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夢現、

第1章 夢でもいいから

(.゚ー゚o[side ⓝ]o

リビングの時計が、夜中に似つかわしくない
軽快な音で3時を告げた。
いつも夜中は鳴らないのにどうしてかなと思ったら、
私達がこうして共用スペースに居て
電気を点けてるからなんですね。
あれ、電気センサー付いてるんだ。

翔さんの語調は、いつもより頼りなげだった。
嵐5人で活動する時も、司会や進行を担ってくれたり、
話の流れを掴んで私達に示してくれたり、
決して派手にではないけれど、しっかりと
役割を果たしてくれる彼。
私達の知らないフィールドで、一人自分にあてがわれた
仕事の責任に立ち向かおうとしていた彼。

自分の仕事に誇りを持ちつつも、
決してひけらかそうとはしない。
ただ、胸中には人並外れた情熱があって、
それ故にこんなに思い悩んでる。

それが櫻井翔って人間なんでしょうね。

私は翔さんの仕事に口出しはできないし、
尤もしようとも思わない、思えないけれど。
だってそれは翔さんの領域だもの。
素人が簡単に口を挟んでいいようなものではないでしょう。

『それで、「まだ死にたくないよー!!」ですか、
まったく人騒がせなんだから』

S「ごめん…」

思わず口角が歪む。簡単には形容しがたい感情によって。
素直に思ったことを言えない、捻くれた
自分の減らず口への憤りと、
その自分の言葉を受けて肩を竦める
目の前の彼の可愛さへの思いを、うまく整理できない。
何だか勝手に気まずくなって、目を伏せた。

ただ、

『まぁ、いいんですけどね。
翔さん、何だかんだ言ってできる人だから』

私にできることは、

『さっき見た時に思いましたけど、
収録終わって帰ってきてからずっと
それと四つに組んで格闘してたんでしょう?
大事なところに付箋貼って、DVD何度も巻き戻して観て』

この減らず口で目の前のあなたをどうにかこうにか
励ますこと。

ローテーブルに乱雑に積まれた雑誌には、
受験生の教科書さながら色とりどりの
付箋が貼られていた。
それから、翔さん右手ではちぎれんばかりに
ソファを握ってましたけど、反対で
リモコン握りしめてたんですよね。
親指を一時停止ボタンのところに当てたまま。

一旦伏せた目を改めて翔さんに向けると、
彼はそのリスみたいな丸い目をさらに丸くして
こちらを見ていた。その目を見つめながら言った。

『だから、大丈夫ですよ。』

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