君が桜のころ
第2章 花影のひと
綾佳が凪子と共に横浜山下町の清賀の屋敷を訪問したのは、それから半月ばかりすぎた日のことだった。
訪問の日、スミは念入りに綾佳の着付けを手伝いながら、真剣な顔で願い出た。
「…綾佳様、私も同行させていただいてよろしいでしょうか?」
綾佳は意外な顔をした。
「…スミが?…ええ、構わないけれど…」
「ありがとうございます。…綾佳様、お綺麗でございますよ。…まあ、亡くなられた奥様に本当によく似ていらして…」
スミは綾佳の顔をじっと見つめながら、涙ぐむ。
「…スミ…、どうしたの?貴方、本当に最近変よ…?ねえ、私にだけは話してちょうだい。スミは私にとってお母様と同じくらいに身近な人なのよ。私はスミを肉親同然に思っているの。だから何でも話してほしいの…」
「綾佳様…そ、それは…」
スミが当惑したように口籠った時、ドアが軽くノックされ、美しく化粧をした凪子が顔を覗かせた。
凪子は綾佳の久しぶりの華やかな着物姿を見ると、朗らかな声を上げた。
「まあ、綾佳さん!…やはり貴女はお着物が良くお似合いになるわね。…楚々としつつも華やかで優美で美しいわ」
そう言って、凪子は綾佳の髪を優しく撫でる。
綾佳はそれだけで、蕩けるような表情になる。
「…お義姉様…」
「鴇色の綸子縮緬の振り袖が良くお似合いよ」
綾佳は凪子の手を取る。
「…お義姉様、スミも同行したいそうなの。構わないかしら?」
凪子は綾佳の後ろで恐縮しつつ控えているスミに眼を遣る。
そしてにっこりと微笑んだ。
「…ええ、もちろん構わなくてよ。お着物だし、スミがいたほうが何かと心強いわよね。…ではそろそろ参りましょう」
凪子は綾佳の手を優しく取ると、扉の方へと促した。
訪問の日、スミは念入りに綾佳の着付けを手伝いながら、真剣な顔で願い出た。
「…綾佳様、私も同行させていただいてよろしいでしょうか?」
綾佳は意外な顔をした。
「…スミが?…ええ、構わないけれど…」
「ありがとうございます。…綾佳様、お綺麗でございますよ。…まあ、亡くなられた奥様に本当によく似ていらして…」
スミは綾佳の顔をじっと見つめながら、涙ぐむ。
「…スミ…、どうしたの?貴方、本当に最近変よ…?ねえ、私にだけは話してちょうだい。スミは私にとってお母様と同じくらいに身近な人なのよ。私はスミを肉親同然に思っているの。だから何でも話してほしいの…」
「綾佳様…そ、それは…」
スミが当惑したように口籠った時、ドアが軽くノックされ、美しく化粧をした凪子が顔を覗かせた。
凪子は綾佳の久しぶりの華やかな着物姿を見ると、朗らかな声を上げた。
「まあ、綾佳さん!…やはり貴女はお着物が良くお似合いになるわね。…楚々としつつも華やかで優美で美しいわ」
そう言って、凪子は綾佳の髪を優しく撫でる。
綾佳はそれだけで、蕩けるような表情になる。
「…お義姉様…」
「鴇色の綸子縮緬の振り袖が良くお似合いよ」
綾佳は凪子の手を取る。
「…お義姉様、スミも同行したいそうなの。構わないかしら?」
凪子は綾佳の後ろで恐縮しつつ控えているスミに眼を遣る。
そしてにっこりと微笑んだ。
「…ええ、もちろん構わなくてよ。お着物だし、スミがいたほうが何かと心強いわよね。…ではそろそろ参りましょう」
凪子は綾佳の手を優しく取ると、扉の方へと促した。