君が桜のころ
第1章 雛祭り
翌朝、朝陽が輝く朝食の間に綾佳が現れると先に席に着いていた凪子は目を合わせて微笑んだ。
「おはよう、綾佳さん」
その言葉を受け、綾佳は透き通るように白い頬を薔薇色に染め、恥ずかしそうにしかし嬉しそうに小さな声で挨拶を返した。
「…おはようございます。お義姉様」
綾佳は今朝は撫子色の加賀友禅の綸子縮緬の着物を着ていた。
美しい長い黒髪を流れるように背中に垂らしているので、まるで日本人形のような嫋やかな美しさである。
「…綾佳さんは本当にお着物が良くお似合いね。とても美しいわ」
目を細めて賞賛する凪子に、綾佳は身悶えしそうに身体を縮める。
こんなときに気の利いた言葉一つ返せない自分が不甲斐ない。
ちらりと見上げた凪子は、真珠色のレースがたっぷりあしらわれたブラウスに落ち着いたラベンダーカラーのロングスカートという若妻らしい洋装である。
長く美しい黒髪を綺麗に結い上げ、高価そうなアメジストの髪留めを飾っているのが優雅で、綾佳は思わず見惚れてしまう。
「…お義姉様こそ…お綺麗です…あの…まるでマリア様みたい…」
なけなしの勇気を振り絞り、凪子に話しかける。
凪子は思わず笑みを漏らす。
「…まあ、嬉しいこと。綾佳さんは本当に可愛らしい方ね」
凪子はテーブル越しに綾佳の頬を軽く撫でる。
結婚指輪をはめた凪子の白魚のような指が一瞬、綾佳の唇に触れた瞬間、綾佳の身体の奥底から甘い疼きが沸き起こった。
「…あっ…」
「?どうかされたの?」
「…い、いいえ。なんでもありません…」
綾佳は慌てて首を振る。
…私、どうしたのかしら…。
初めての感覚に動悸が止まらない。
…と、そこにスーツ姿の慎一郎が現れ、席に着いた。
凪子は軽く会釈をして慎一郎に微笑みを送り、麻乃に朝食の指示を出した。
…今日から九条家の女主人となった凪子が、この家の内向きの事は全て取り仕切ることになったからである。
初日だというのに全く戸惑わず、落ち着いて気品に満ちた所作と口調で、使用人に指示を出す凪子を、綾佳はうっとりと思慕の眼差しで見つめた。
「おはよう、綾佳さん」
その言葉を受け、綾佳は透き通るように白い頬を薔薇色に染め、恥ずかしそうにしかし嬉しそうに小さな声で挨拶を返した。
「…おはようございます。お義姉様」
綾佳は今朝は撫子色の加賀友禅の綸子縮緬の着物を着ていた。
美しい長い黒髪を流れるように背中に垂らしているので、まるで日本人形のような嫋やかな美しさである。
「…綾佳さんは本当にお着物が良くお似合いね。とても美しいわ」
目を細めて賞賛する凪子に、綾佳は身悶えしそうに身体を縮める。
こんなときに気の利いた言葉一つ返せない自分が不甲斐ない。
ちらりと見上げた凪子は、真珠色のレースがたっぷりあしらわれたブラウスに落ち着いたラベンダーカラーのロングスカートという若妻らしい洋装である。
長く美しい黒髪を綺麗に結い上げ、高価そうなアメジストの髪留めを飾っているのが優雅で、綾佳は思わず見惚れてしまう。
「…お義姉様こそ…お綺麗です…あの…まるでマリア様みたい…」
なけなしの勇気を振り絞り、凪子に話しかける。
凪子は思わず笑みを漏らす。
「…まあ、嬉しいこと。綾佳さんは本当に可愛らしい方ね」
凪子はテーブル越しに綾佳の頬を軽く撫でる。
結婚指輪をはめた凪子の白魚のような指が一瞬、綾佳の唇に触れた瞬間、綾佳の身体の奥底から甘い疼きが沸き起こった。
「…あっ…」
「?どうかされたの?」
「…い、いいえ。なんでもありません…」
綾佳は慌てて首を振る。
…私、どうしたのかしら…。
初めての感覚に動悸が止まらない。
…と、そこにスーツ姿の慎一郎が現れ、席に着いた。
凪子は軽く会釈をして慎一郎に微笑みを送り、麻乃に朝食の指示を出した。
…今日から九条家の女主人となった凪子が、この家の内向きの事は全て取り仕切ることになったからである。
初日だというのに全く戸惑わず、落ち着いて気品に満ちた所作と口調で、使用人に指示を出す凪子を、綾佳はうっとりと思慕の眼差しで見つめた。