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君が桜のころ

第1章 雛祭り

「綾佳の部屋を母屋に?」
慎一郎が驚いたように眉を上げ、凪子に聞き返す。
凪子は部屋着姿の慎一郎にガウンを着せかけてやりながら、微笑みかけた。

入浴も終え、ようやく夫婦の時間が過ごせるとほっとした時、凪子から意外な提案をされ慎一郎は戸惑う。
「…ええ、綾佳さんのお部屋をこちらの二階にお移ししたいのですが…」
跪き器用にガウンのサッシュを結びながら答える。
凪子は裾の長い白いナイトドレス姿だ。
胸元は薄いシフォンで出来ているので、その美しく豊満な乳房がともすれば透けそうで、慎一郎はどきどきしながら目を逸らす。
「綾佳さんのお部屋を今日拝見いたしましたが、陽当たりも余りよろしくないですし、何よりお一人で離れはやはりお寂しいと思いますの」
凪子はキャビネットから取り出したブランデーをバカラのグラスに注ぎ、慎一郎に手渡す。
「…しかし…離れに引き籠りだしたのは綾佳からなのです。…恐らくこちらには来たがらないでしょう」
困惑するように言う慎一郎に
「…では、綾佳さんが移ると仰ったら宜しいですか?」
と蠱惑的な眼差しで見上げた。

慎一郎は堪らずに、一口飲んだバカラのグラスを珍しく荒い所作でテーブルに置き、凪子の腕を引き寄せる。
「…ええ…」
凪子が花が咲いたように笑った。
「ありがとうございます。私、綾佳さんを説得してみせますわ」
慎一郎は呼吸を荒げながら凪子の顎を引き寄せ、強引に唇を奪う。
「…おかしな方だ…貴女は…。あんな…手の掛かる妹を…なぜそんなに親身に世話をしてくださるのです…」
凪子は自分からも慎一郎の唇に唇を重ねながら、微笑む。
「…綾佳さんが可愛らしくていじらしいからですわ…」
「…凪子さん…!」
慎一郎は凪子のナイトドレスの肩紐を美しい真珠色をした肌から滑り落とす。
そのまま二人は縺れ合うように寝台に倒れこむ。
凪子を組み敷きながら、慎一郎は熱く見つめる。
「…凪子さん…貴女は恐ろしい人だ…」
「なぜですの?」
慎一郎は凪子のナイトドレスをゆっくり脱がしながら、その玉のような肌を確かめるように触れてゆく。
「…こんな…美しく妖しい身体をされて…私を骨抜きにしようとする…私は…昼も夜も貴女のことで頭が一杯です…苦しいほどに…」
凪子は目を細め慎一郎の唇をなぞる。
「…まあ嬉しい…慎一郎さんのように美しい殿方にそんなに想われるなんて…凪子は幸せです…」

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