君が桜のころ
第1章 雛祭り
凪子の部屋は夫婦の寝室の隣にあった。
部屋も居間と着替え室の二間なので相当に広い部屋である。
いかに凪子が丁重に九条家に迎えられたかが感じ取られた。
今まで空室だったところに一之瀬家から連日絢爛豪華な婚礼家具の数々が運び込まれる様は九条家に古くからいる家政婦や女中の目を奪った。
「本当に、一之瀬家というのはとんでもない大富豪でいらっしゃいますよ」
スミは新しい家具が花嫁の部屋に入るたびに目を丸くして綾佳に報告に来たものだ。
凪子の部屋は趣味の良いアールヌーボー様式の装飾が施された家具に囲まれていた。
…外国の雑誌に出てくるシネマ女優さんのお部屋みたい。
綾佳はうっとりと首を巡らす。
そこに一之瀬家から凪子についてきたメイドの皐月がワゴンを押しながらアフタヌーンティーを運んで来た。
皐月は黒いドレスの制服に白いエプロンをつけ、髪には白いレース飾りというヴィクトリア朝様式のメイドの姿をしている。
その皐月の手によって飴色のテーブルに薫り高いダージリンのティーセット、三段の銀の食器に載せられたサンドイッチ、スコーン、プチケーキなどが美しく並べられる。
今まで見たこともないような西洋の本格的なアフタヌーンティーに綾佳は目を見張る。
そんな綾佳を優しく見ながら、凪子は皐月を紹介した。
「綾佳さん、私のメイドの皐月よ。これから貴女のお世話をすることもあると思うのでよろしくね」
皐月は洗練された所作で膝を折り、お辞儀をする。
「皐月でございます。綾佳様。不束者でございますが、何卒よろしくお願いいたします」
綾佳は恥ずかしそうに頭を下げた。
「よろしくお願いします…」
皐月が退出すると、凪子は綾佳に自らダージリンをカップに注ぐ。
「一之瀬の家は昔から万事西洋式でね。…父は成り上がりの実業家だから欧米コンプレックスがあるのよ。だからお茶といえば英国式のアフタヌーンティー…。味もよくわからないのにね」
目配せして肩をすくめる。
辛辣に父親を批評する凪子に綾佳は驚く。
しかしそれはちっとも悪い感じはせず、寧ろ父親に対する温かい愛情を感じさせる言葉で、綾佳は思わず微笑んだ。
凪子も笑い返す。
「だから九条家の古式ゆかしい習慣や、先祖代々受け継がれる伝統や日本古来のお着物や建物などを拝見すると素晴らしいと思うわ」
綾佳は凪子に自分の家を褒められた嬉しさに胸の中が温かくなった。
部屋も居間と着替え室の二間なので相当に広い部屋である。
いかに凪子が丁重に九条家に迎えられたかが感じ取られた。
今まで空室だったところに一之瀬家から連日絢爛豪華な婚礼家具の数々が運び込まれる様は九条家に古くからいる家政婦や女中の目を奪った。
「本当に、一之瀬家というのはとんでもない大富豪でいらっしゃいますよ」
スミは新しい家具が花嫁の部屋に入るたびに目を丸くして綾佳に報告に来たものだ。
凪子の部屋は趣味の良いアールヌーボー様式の装飾が施された家具に囲まれていた。
…外国の雑誌に出てくるシネマ女優さんのお部屋みたい。
綾佳はうっとりと首を巡らす。
そこに一之瀬家から凪子についてきたメイドの皐月がワゴンを押しながらアフタヌーンティーを運んで来た。
皐月は黒いドレスの制服に白いエプロンをつけ、髪には白いレース飾りというヴィクトリア朝様式のメイドの姿をしている。
その皐月の手によって飴色のテーブルに薫り高いダージリンのティーセット、三段の銀の食器に載せられたサンドイッチ、スコーン、プチケーキなどが美しく並べられる。
今まで見たこともないような西洋の本格的なアフタヌーンティーに綾佳は目を見張る。
そんな綾佳を優しく見ながら、凪子は皐月を紹介した。
「綾佳さん、私のメイドの皐月よ。これから貴女のお世話をすることもあると思うのでよろしくね」
皐月は洗練された所作で膝を折り、お辞儀をする。
「皐月でございます。綾佳様。不束者でございますが、何卒よろしくお願いいたします」
綾佳は恥ずかしそうに頭を下げた。
「よろしくお願いします…」
皐月が退出すると、凪子は綾佳に自らダージリンをカップに注ぐ。
「一之瀬の家は昔から万事西洋式でね。…父は成り上がりの実業家だから欧米コンプレックスがあるのよ。だからお茶といえば英国式のアフタヌーンティー…。味もよくわからないのにね」
目配せして肩をすくめる。
辛辣に父親を批評する凪子に綾佳は驚く。
しかしそれはちっとも悪い感じはせず、寧ろ父親に対する温かい愛情を感じさせる言葉で、綾佳は思わず微笑んだ。
凪子も笑い返す。
「だから九条家の古式ゆかしい習慣や、先祖代々受け継がれる伝統や日本古来のお着物や建物などを拝見すると素晴らしいと思うわ」
綾佳は凪子に自分の家を褒められた嬉しさに胸の中が温かくなった。