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君が桜のころ

第1章 雛祭り

「…お洋服?わ、私が…?」
綾佳の睫毛が驚きに震える。
「ええ。…綾佳さんは本当にお着物がよくお似合いよ。お人形さんみたいにお美しいわ。でも、洋装もきっとお似合いになると思うの。…ね?着てみましょう?」
凪子が綾佳の手を取る。
綾佳は一瞬、手を震わせたがすぐに凪子に手を柔らかく委ねた。
そして仔犬のように濡れた眼差しで凪子を見つめた。
…この人は私に触れられただけでこんなにも熱い眼差しで見つめ返してくるのね…。
凪子の中で綾佳への愛しさが増してくる。
「…お兄様は…なんと仰るかしら…」
…洋装なんて眉を顰められるのではないかしら…。
綾佳の心配を見て取った凪子は艶やかに笑いながら答えた。
「慎一郎さんにはまだご承諾いただいてはいないけれど…大丈夫。…今夜私がおねだりしてみるから…」
その言葉の湿度と甘さに綾佳は何とも言えない淫靡さを感じた。
綾佳は性についてはまるで赤ん坊のように無知だ。
だが、凪子の美しいうなじに残る紅い花のような痕とその言葉が、なぜだか結びつき、一人で頬が熱くなるのを感じた。
「…ね。綾佳さん。私、綾佳さんの洋装が見たいわ…」
顔を覗き込まれるように近づけられ、綾佳は俯きながら小さく頷いた。
「良かったわ!嬉しいこと!」
凪子が華やかな声を上げて喜んだ。
「早速、私が行きつけの洋装店に連絡をするわ。お洋服のデザインは任せてね。私が綾佳さんに似合う素晴らしいデザインのお洋服を作るよう注文するから」
「…あ、ありがとうございます…」
凪子は艶めいた流し目で綾佳に笑いかけると、椅子から立ち上がり口を開いた。
「…では綾佳さん。…こちらの着替え室にいらしてお着物を脱いでちょうだい」
綾佳の長い睫毛が震えた。
「…え?」
「…お身体の寸法を測らなくては…。綾佳さんの身体にぴったり合う服を作るのですから」
綾佳は両手を胸の前でぎゅっと握りしめた。
「…で…でも…」
凪子が優しく肩を抱く。
ジャスミンの香りに包まれ、更に胸の鼓動が、高鳴る。
「…女同士でしょう?…恥ずかしがることはないわ」
「…でも…」
凪子が綾佳の髪を撫でながら優しく耳元で囁く。
「…誰も部屋には近づけないわ。私が測って差し上げるから…。ね?綾佳さん」
…ややあって綾佳は震える薄紅色の唇をぎゅっと閉じ、僅かに頷いた。

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