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君が桜のころ

第1章 雛祭り

綾佳は凪子に手を引かれ、隣の着替え室に導かれた。
着替え室とはいえ、たっぷり十畳はある部屋である。
凪子の輿入れが決まってから、大幅な改築がなされたのはこの凪子の着替え室、居間、そして夫婦の寝室だ。
壁に沿ったクローゼットが作られ、そのクローゼットには凪子の華やかな衣装がまるで洋装店のように収納されている。
お洒落な凪子は洋服やドレスはパリの有名デザイナーに依頼するオートクチュールが殆どらしい。
クローゼットの中にはシルクのナイトドレスが並んでいた。
黒いシルクの悩ましいナイトドレスを見た瞬間、綾佳は頬が赤らむのを感じた。
着替え室の隣は夫婦の寝室だ。
扉は慎み深く閉じられていて中を窺い知ることはできない。

「今日は、ご夫婦の寝台が運び込まれましたよ。まあ大きくて豪華な…まるで王様が眠るような寝台でしたよ。…あの寝台に慎一郎様とお嫁様はお寝みになられるのですねえ…」
その寝台はもちろん、改築費から婚礼家具の費用まで全てが一之瀬家持ちであるということまでスミが興奮の余り、明け透けに報告に来たことを綾佳は思い出していた。

ふと、その広い寝台に凪子と慎一郎が一糸纏わぬ姿で抱き合う姿を想像し、胸の奥がカッと焼け付くように痛んだ。
と、同時に胸が甘苦しく締め付けられる。
…ご夫婦なのだから、ご一緒にお寝みになって当然だわ。
なにを私は想像しているの?
嫌らしい綾佳…!
綾佳は自分の淫らな想像を振り払うかのように首を振る。

「…さあ、綾佳さん。まずは帯を解いて…」
綾佳の肩を抱き、優しく、しかし有無を言わせぬ口調で凪子は囁く。
綾佳は覚悟を決めて、震える華奢な手を帯へと回した。

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