君が桜のころ
第1章 雛祭り
スミが綾佳のリボンを直してやりながら明るく話しかける。
「お兄様と凪子様もダイニングでお待ちでございますよ。…まあ、凪子様のお美しいことといったら…!お式での素晴らしいウェディングドレス姿の凪子様を綾佳お嬢様にもお見せてさしあげたかったほどですよ」
華やかな結婚式後の興奮からか、スミはいつになく饒舌だ。
「さすがは一之瀬銀行の頭取のお嬢様、凪子様のウェディングドレスはフランスから直輸入された素晴らしいレースをふんだんに使った超一流品でした。…しかも凪子様は大変な美人でいらして…あのようにお美しいお方を私は今まで綾佳様と亡くなった奥様以外に拝見したことはございません。…美男子のお兄様のお隣に並ばれても全く遜色がないのは凪子様だからでしょう。
本当に、九条家にとってこのご結婚はこの上ない良縁でございました」
ようやくスミのお喋りが止んだのをしおに、綾佳は小さな声で尋ねる。
「…ねえ、スミ…。私、やはりダイニングに行かなくては駄目かしら…」
スミは目を丸くする。
「何を仰るのですか?」
「…だって…そんな眩しいようなお美しいお義姉様に…私がお会いするのなんて…おこがましくて…わ、私なんかお目にかかったら…きっと粗相をするわ…。お兄様に恥をかかせてしまう…」
綾佳は涙ぐまんばかりにかき口説く。
「…お嬢様…。何を仰るのですか。凪子様は今日からこのお屋敷に住まわれるのですよ。綾佳様のお義姉様になられるお方にお会いしないなんてそんなことが許されるはずがありません」
「…でも…わ、私なんか…」
「綾佳様…」
押し問答している二人の耳に響いて来たのは、女中のまつの遠慮勝ちな声であった。
「…お嬢様、あのう…凪子様がこちらにお見えになっていらっしゃいます…」
二人は驚いて振り返る。
すると、静かなノックの音が響き、ゆっくりとドアが開いた。
「…失礼いたします。綾佳さん。凪子です。…早く綾佳さんにお会いしたくて、私から伺ってしまいました」
そこには白いシルクのドレスを身に纏ったまるで西洋絵画から抜け出したように美しく華やかで艶めいた1人の若い淑女が佇んでいた。
…お義姉様…?
このお方が凪子お義姉様なの?
綾佳は瞬きするのも忘れて、目の前の凪子に釘付けになった。
…こんなにも美しい方がこの世にいらっしゃるなんて…。
私は夢を見ているのかしら…。
これは現実なのかしら…。
「お兄様と凪子様もダイニングでお待ちでございますよ。…まあ、凪子様のお美しいことといったら…!お式での素晴らしいウェディングドレス姿の凪子様を綾佳お嬢様にもお見せてさしあげたかったほどですよ」
華やかな結婚式後の興奮からか、スミはいつになく饒舌だ。
「さすがは一之瀬銀行の頭取のお嬢様、凪子様のウェディングドレスはフランスから直輸入された素晴らしいレースをふんだんに使った超一流品でした。…しかも凪子様は大変な美人でいらして…あのようにお美しいお方を私は今まで綾佳様と亡くなった奥様以外に拝見したことはございません。…美男子のお兄様のお隣に並ばれても全く遜色がないのは凪子様だからでしょう。
本当に、九条家にとってこのご結婚はこの上ない良縁でございました」
ようやくスミのお喋りが止んだのをしおに、綾佳は小さな声で尋ねる。
「…ねえ、スミ…。私、やはりダイニングに行かなくては駄目かしら…」
スミは目を丸くする。
「何を仰るのですか?」
「…だって…そんな眩しいようなお美しいお義姉様に…私がお会いするのなんて…おこがましくて…わ、私なんかお目にかかったら…きっと粗相をするわ…。お兄様に恥をかかせてしまう…」
綾佳は涙ぐまんばかりにかき口説く。
「…お嬢様…。何を仰るのですか。凪子様は今日からこのお屋敷に住まわれるのですよ。綾佳様のお義姉様になられるお方にお会いしないなんてそんなことが許されるはずがありません」
「…でも…わ、私なんか…」
「綾佳様…」
押し問答している二人の耳に響いて来たのは、女中のまつの遠慮勝ちな声であった。
「…お嬢様、あのう…凪子様がこちらにお見えになっていらっしゃいます…」
二人は驚いて振り返る。
すると、静かなノックの音が響き、ゆっくりとドアが開いた。
「…失礼いたします。綾佳さん。凪子です。…早く綾佳さんにお会いしたくて、私から伺ってしまいました」
そこには白いシルクのドレスを身に纏ったまるで西洋絵画から抜け出したように美しく華やかで艶めいた1人の若い淑女が佇んでいた。
…お義姉様…?
このお方が凪子お義姉様なの?
綾佳は瞬きするのも忘れて、目の前の凪子に釘付けになった。
…こんなにも美しい方がこの世にいらっしゃるなんて…。
私は夢を見ているのかしら…。
これは現実なのかしら…。