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君が桜のころ

第1章 雛祭り

凪子は静かに綾佳の前に立ち、その白く美しい手をそっと綾佳の頬に当てる。
「…まあ、なんてお美しくて可愛らしい方なの。綾佳さん」
ひんやりとしたすべらかな凪子の手からジャスミンのような良い薫りが漂い、綾佳の胸はどきどきとときめいた。
「…凪子さま…」
凪子の西洋人形のように整った美しい顔をおずおずと見上げ、一生懸命挨拶しようと口を開いた綾佳に、凪子は優しく微笑んだ。
「お義姉様と呼んでくださらない?綾佳さん…」
「…お、お義姉様…?」
「そうよ、綾佳さん。私と貴女は今日から姉妹になるのですもの」
凪子が大輪の花が開くように笑った。
綾佳は目の前の美しいひとを義姉と呼べる僥倖に打ち震えそうになりながら、呟く。
「…姉妹?私と…凪子さまが?」
「お義姉様よ、綾佳さん」
凪子は綾佳の手を取り、優しく撫でた。
「…お義姉様…」
「そう!…嬉しいわ、貴女のように美しい義妹が出来るなんて…」
凪子の手はまるで貴重な練絹のように柔らかく華奢で、綾佳は自分の手が醜くないか、凪子に不快な思いをさせないか、胸が苦しくなるような思いだった。

まだ碌に話もできない綾佳を気にする様子もなく、凪子は綾佳の手を取ったまま部屋の外にいざなう。
「さあ、お兄様がダイニングでお待ちよ。ご一緒にまいりましょう」
「…は、はい。…お義姉様…」
蚊の鳴くような小さな声で返事をした綾佳を凪子は愛しげに見つめ、微笑んだ。

まつが扉を開け、スミが恭しくお辞儀をする中、凪子はまるで舞踏会にいざなうかのような優雅さで綾佳の手を取ったまま、母屋に続く長い廊下を歩き始めた。


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