君が桜のころ
第1章 雛祭り
凪子は、恥じらいながら自ら豪奢な帯を解く綾佳を近くで見つめた。
衣摺れの音を立てながら、ふくら雀に結ばれた帯が長い尾を垂らしながら解かれてゆく。
か細い綾佳には1人で帯を解くのは難儀そうだと見てとると、
「…手伝うわ、綾佳さん」
と凪子は背後に回った。
「…お義姉様…」
綾佳は首を捩り、凪子を見上げる。
黒い瞳は潤み、恥じらいからか頬は朱を刷いたように紅潮している。
凪子は自分でも不思議な感情に襲われた。
この美しい幽閉された姫君に夜這いを掛け、手籠めにする男になったような気分だ。
綾佳を保護してやりたいという気持ちと、この稀有な美しく儚い花のような少女を無体に散らしてしまいたいという相反する感情が凪子の中に湧き上がる。
…こんな気持ち、初めてだわ…。
凪子は内心苦笑する。
淡い藤色の帯揚げを取る。
大きな薔薇の柄が描かれた華やかな紅色の錦紗の振り袖を肩から滑らせる。
綾佳は白い綸子の長襦袢一枚の姿になった。
半襟をかけた白い長襦袢に白い絹のしごきがまるで絵巻物のお姫様のようだ。
凪子は綾佳の背中を抱き締めるように背後からしごきの結び目に手を掛ける。
綾佳は小さく息を飲み、華奢な身体を震わせた。
「…取るわよ…綾佳さん」
咄嗟に綾佳は凪子の手に手を重ね握り締める。
「…ま、待って…お義姉様…!」
「恥ずかしがらないで…」
「…でも…あの…」
綾佳は口ごもる。
凪子は綾佳の長襦袢姿を見渡す。
そして、あることに合点がいく。
「…綾佳さん、貴女…下着を着けていないのね…?」
綾佳は俯き、羞恥のあまり首筋を染めた。
「…はい…。お着物を着るときは…下着を着けてはならないとお母様に言われて…」
凪子は今にも泣きそうな綾佳を背後から抱き締める。
「…いいのよ。そうよね。お着物の正式な着方はそうだわ。間違っていないもの」
「…お義姉様…」
綾佳は凪子の手をぎゅっと握る。
凪子はまるでくちづけするかのように綾佳の顎を持ち上げ、囁く。
「…でも、お洋服のときは下着を身に付けなければね…。キャミソールも…大丈夫、私が全て揃えてさしあげるわ」
「…お義姉様…」
黒く濡れた瞳がうっとりしたように凪子を見つめる。
綾佳の長い睫毛が震える。
呪文をかけるように凪子が微笑みながら甘く囁く。
「…大丈夫よ。私が何もかも教えてさしあげるわ。綾佳さんに…貴女がご存知ない全てを…」
衣摺れの音を立てながら、ふくら雀に結ばれた帯が長い尾を垂らしながら解かれてゆく。
か細い綾佳には1人で帯を解くのは難儀そうだと見てとると、
「…手伝うわ、綾佳さん」
と凪子は背後に回った。
「…お義姉様…」
綾佳は首を捩り、凪子を見上げる。
黒い瞳は潤み、恥じらいからか頬は朱を刷いたように紅潮している。
凪子は自分でも不思議な感情に襲われた。
この美しい幽閉された姫君に夜這いを掛け、手籠めにする男になったような気分だ。
綾佳を保護してやりたいという気持ちと、この稀有な美しく儚い花のような少女を無体に散らしてしまいたいという相反する感情が凪子の中に湧き上がる。
…こんな気持ち、初めてだわ…。
凪子は内心苦笑する。
淡い藤色の帯揚げを取る。
大きな薔薇の柄が描かれた華やかな紅色の錦紗の振り袖を肩から滑らせる。
綾佳は白い綸子の長襦袢一枚の姿になった。
半襟をかけた白い長襦袢に白い絹のしごきがまるで絵巻物のお姫様のようだ。
凪子は綾佳の背中を抱き締めるように背後からしごきの結び目に手を掛ける。
綾佳は小さく息を飲み、華奢な身体を震わせた。
「…取るわよ…綾佳さん」
咄嗟に綾佳は凪子の手に手を重ね握り締める。
「…ま、待って…お義姉様…!」
「恥ずかしがらないで…」
「…でも…あの…」
綾佳は口ごもる。
凪子は綾佳の長襦袢姿を見渡す。
そして、あることに合点がいく。
「…綾佳さん、貴女…下着を着けていないのね…?」
綾佳は俯き、羞恥のあまり首筋を染めた。
「…はい…。お着物を着るときは…下着を着けてはならないとお母様に言われて…」
凪子は今にも泣きそうな綾佳を背後から抱き締める。
「…いいのよ。そうよね。お着物の正式な着方はそうだわ。間違っていないもの」
「…お義姉様…」
綾佳は凪子の手をぎゅっと握る。
凪子はまるでくちづけするかのように綾佳の顎を持ち上げ、囁く。
「…でも、お洋服のときは下着を身に付けなければね…。キャミソールも…大丈夫、私が全て揃えてさしあげるわ」
「…お義姉様…」
黒く濡れた瞳がうっとりしたように凪子を見つめる。
綾佳の長い睫毛が震える。
呪文をかけるように凪子が微笑みながら甘く囁く。
「…大丈夫よ。私が何もかも教えてさしあげるわ。綾佳さんに…貴女がご存知ない全てを…」