君が桜のころ
第1章 雛祭り
「え…?ぼ、僕がそっちに行っていいの?」
月見台の手すりから身を乗り出し、今にも池に落ちそうになりながら、春翔は綾佳に尋ねる。
綾佳は目を伏せながら頷く。
「…お写真を見ながら…お義姉様のお話を伺いたいですし…」
春翔は合点がいった。
「あは…!解説ね、解説。うん!何でも教えてあげるよ、任してよ!」
春翔は月見台を出ると、飛び石を二つ抜かしで駆け抜けながら縁側に走り寄る。
まだまだ硬い表情の綾佳を安心させるように声をかける。
「…綾佳ちゃん、近くまで来させてくれてありがとう。…あのう…どこまでだったらいい?」
綾佳は暫く考えていたが、不意に姿を消すと奥の部屋から綺麗な座布団を持ってきた。
そしてそれを丁寧に縁側の真ん中におく。
「…どうぞ…。あの…スミがいないので、お茶も差し上げられませんが…」
申し訳なさそうに言う姿が愛らしい。
「…か、可愛い…可愛いすぎる…!」
春翔は思わず独りごちた。
「大丈夫!全然大丈夫!…お邪魔します…!」
神妙に座布団に座る春翔を見つめ、恥ずかしそうに少し離れたところに正座し、アルバムを開く。
…アルバムは凪子がフェリス女学院に通っていた頃から始まっていた。
綾佳は最初からうっとりとした顔で写真を見つめる。
「…お義姉様、セーラー服を着てらっしゃる…綺麗…」
「まあね。…近くに海軍士官学校があってさ、毎朝登校する度に士官たちに待ち伏せされてたって。…お付きのばあやが追い払っていたって」
「おもてになったんですね…。これは…テニスですか?」
軽井沢でテニスをする写真を指差す。
「うん。軽井沢テニス倶楽部。凪子はテニスの名手だよ。僕はいつもコテンパンにやられるばかりさ」
綾佳の瞳がきらきら輝く。
「…お義姉様、すごい!」
春翔はさりげなく綾佳との距離をじわじわ縮める。
「綾佳ちゃん、テニスはしたことある?」
綾佳は首を振る。
「いいえ」
「スキーはしたことある?凪子はスキーも上手いよ。冬はよくスイスのシャモニーにスキーをしに行ってたな」
「…凄いわ…お義姉様!」
もはや憧れのヒーローを見るような熱い目で写真を見つめる。
そして小さな声で呟く。
「…私は…テニスもスキーもした事はありません。…女学校も一年で辞めてしまいました…馴染めなくて…そのあとはずっとこの屋敷だけで暮らしています。…外に出たこともありません…」
羞じるように俯く。
月見台の手すりから身を乗り出し、今にも池に落ちそうになりながら、春翔は綾佳に尋ねる。
綾佳は目を伏せながら頷く。
「…お写真を見ながら…お義姉様のお話を伺いたいですし…」
春翔は合点がいった。
「あは…!解説ね、解説。うん!何でも教えてあげるよ、任してよ!」
春翔は月見台を出ると、飛び石を二つ抜かしで駆け抜けながら縁側に走り寄る。
まだまだ硬い表情の綾佳を安心させるように声をかける。
「…綾佳ちゃん、近くまで来させてくれてありがとう。…あのう…どこまでだったらいい?」
綾佳は暫く考えていたが、不意に姿を消すと奥の部屋から綺麗な座布団を持ってきた。
そしてそれを丁寧に縁側の真ん中におく。
「…どうぞ…。あの…スミがいないので、お茶も差し上げられませんが…」
申し訳なさそうに言う姿が愛らしい。
「…か、可愛い…可愛いすぎる…!」
春翔は思わず独りごちた。
「大丈夫!全然大丈夫!…お邪魔します…!」
神妙に座布団に座る春翔を見つめ、恥ずかしそうに少し離れたところに正座し、アルバムを開く。
…アルバムは凪子がフェリス女学院に通っていた頃から始まっていた。
綾佳は最初からうっとりとした顔で写真を見つめる。
「…お義姉様、セーラー服を着てらっしゃる…綺麗…」
「まあね。…近くに海軍士官学校があってさ、毎朝登校する度に士官たちに待ち伏せされてたって。…お付きのばあやが追い払っていたって」
「おもてになったんですね…。これは…テニスですか?」
軽井沢でテニスをする写真を指差す。
「うん。軽井沢テニス倶楽部。凪子はテニスの名手だよ。僕はいつもコテンパンにやられるばかりさ」
綾佳の瞳がきらきら輝く。
「…お義姉様、すごい!」
春翔はさりげなく綾佳との距離をじわじわ縮める。
「綾佳ちゃん、テニスはしたことある?」
綾佳は首を振る。
「いいえ」
「スキーはしたことある?凪子はスキーも上手いよ。冬はよくスイスのシャモニーにスキーをしに行ってたな」
「…凄いわ…お義姉様!」
もはや憧れのヒーローを見るような熱い目で写真を見つめる。
そして小さな声で呟く。
「…私は…テニスもスキーもした事はありません。…女学校も一年で辞めてしまいました…馴染めなくて…そのあとはずっとこの屋敷だけで暮らしています。…外に出たこともありません…」
羞じるように俯く。