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君が桜のころ

第1章 雛祭り

「ほんとに?…ほんとに僕と友達になってくれる⁈」
「…は、はい…。私でよろしければ…」
綾佳は恥ずかしそうに目を伏せながら頷いた。
春翔は反射的に立ち上がる。
そして喜びの雄叫びをあげながら、飛び上がった。
「やった!やったぞ!綾佳ちゃん!万歳!万歳!バンザ〜〜イ‼︎」
万歳三唱をしている春翔の耳に、緊張を孕んだ声が届く。

「…そ、そこにいらっしゃるのは…どなたですかッ‼︎」
慌てて振り返ると、母屋の渡り廊下に麻乃が憤然と仁王立ちをしていた。

「やっべ!あのバアさんに見つかった!」
物凄い勢いで渡り廊下を走ってくる麻乃から逃げるべく、春翔は早口で綾佳に告げる。
「綾佳ちゃん、また来てもいい?」
「…は、はい」
「ありがとう!じゃあ、あのバアさんに捕まらない内に帰るね」
早くも裏木戸に向かい駆け出している春翔に、綾佳は慌ててアルバムを上げる。
「…あ、あの…!これは…?」
春翔は笑いながら手を振る。
「綾佳ちゃんにあげるよ。凪子はいらないって納戸に置いていったんだ。…じゃあね!」
「は、はい。…あの、ありがとうございました…!」
綾佳が下げた頭を上げた時にはもう春翔の姿は影も形もなかった。

それと同時に、麻乃が駆け寄って来る。
「お嬢様!ご無事でしたか?…春翔様ですね?…あれほどお目通りは叶わないとお伝えしたのですが…!
…全く!きょうびの若者はこれだから…!いくら奥様の弟様でも見逃すわけにはまいりませんわ!」
苦々しく春翔が逃げた方向を睨む麻乃に、綾佳はそっと囁いた。
「…麻乃、次回からは春翔様は私のところにお通ししてちょうだい。呉々も失礼がないようにね…」
麻乃が驚きの余り、口をあんぐりと開ける。
「…お、お嬢様⁈それはまた…ど、どういうことでございますか…⁉︎」
綾佳はアルバムを胸に抱きしめながら、恥ずかしそうに…しかし嬉しそうにはっきりと答えた。
「…春翔様とはお友達になったのです…」


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