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君が桜のころ

第1章 雛祭り

「綾佳ちゃん、まだかな?」
慎一郎と凪子はそろそろ到着する予定だ。
春翔はそわそわしながら大階段を見上げる。
麻乃は冷ややかな眼で春翔を見遣る。
「…もう間もなく降りていらっしゃるかと思いますが…春翔様…」
「…凪子達、着いちゃうよ…ん?なに?麻乃」
麻乃はわざとらしく咳払いをする。
「…あの、なぜに旦那様と奥様がご帰宅されるこの日に、春翔様までお出迎えされるのでしょうか…?…と、申しますか…ここ最近、毎日のようにお見えですわよね?春翔様?」
春翔は大袈裟に溜息を吐き、肩を竦めてみせる。
「麻乃は冷たいなあ…。他の女中達はみんな僕に優しいのにさ」
「若い娘達は軽薄でございますからね」
春翔がこの屋敷に脚繁く通うようになり、色めき立ったのは若い女中達であった。
誰が春翔にお茶を出すかで諍いが起こるほどであった。
今も用もないのに、遠巻きで春翔に熱い眼差しを送る女中達に麻乃は腹立たしげに散るようにジェスチャーを送る。
「ねえ、麻乃。…ちょっと綾佳ちゃんの様子を覗いてきてもいいかな?」
大階段を上ろうとする春翔の腕をがっつりと捉える麻乃である。
「なりません!お嬢様のお着替えを覗かれるなんて…なんと破廉恥な!」
「ちょっと見るだけだって。本当に融通が効かない婆さんだなあ」
「婆さんではありません!麻乃ですッ!」
二人が恒例の小競り合いをしていると、大階段の上から、皐月の声が聞こえた。

「…綾佳様のお支度が整いました」
二人は一斉に階段上を仰ぎ見る。
そして、同時に息を呑んだ。

白いシルクシフォンのアフタヌーンドレスの、眩いばかりに美しい綾佳の姿がそこにはあった。

美しい黒髪は高い位置で結い上げられ、白い薔薇が飾られている。
華やかにカールされた髪が愛らしくも美しい。
嫋やかな首筋は白鳥のような優美さで、プリンセス袖から覗いた腕は透き通るように白くほっそりと長い。
一際眼を引いたのは、綾佳のスタイルの良さだ。
今まで着物に注意深く隠されていた身体の線がドレスの上からとは言え、露わになっているのだ。
美しい曲線を描く胸部、華奢で細い腰のライン…それとは対照的に女性らしい成熟が感じ取れるお尻のライン…。
それは綾佳の清楚さを裏切るような豊潤な像であった。
意外な綾佳の肉体美に、春翔は思わず眼が釘付けになる。
「…綾佳ちゃん…すごく…綺麗だ…」
譫言のような声が漏れる。

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