君が桜のころ
第2章 花影のひと
品川の一之瀬家では、春翔が大食堂で遅めの朝食を摂っていた。
「母さんは?」
春翔は薄いトーストにバターを塗りながら家政婦のあずさに尋ねた。
「奥様はいつものように5時にご起床になり、6時にはご朝食をお召し上がりになりましたよ」
春翔は肩を竦める。
「相変わらず早起きだなあ」
そこにスーツ姿の兄、彌一郎が現れる。
「お前が遅すぎるんだ。…大学は?ちゃんと行っているのか?」
ご自慢のスイスの高級腕時計を癇性に磨き上げながら、彌一郎が尋ねる。
「行ってるよ」
彌一郎が苦手な春翔はそっけなく答える。
「フン…お前の頭で帝大に入れたのは奇跡なんだからな。落第しても構わんからちゃんと卒業しろよ。お前の取り柄は今の所、顔しかないんだからな」
相変わらず嫌味な野郎だと春翔は心の中で舌を出しながら、無視をする。
彌一郎は近くのメイドに珈琲を持って来るように言いつけると、春翔の前に座る。
「今日は凪子が挨拶に来るんだよな。…俺は凪子に会ってから銀行に顔を出す」
銀縁眼鏡を気障に上げ、髪を撫で付ける仕草をする。
なんのかんの言いながら、彌一郎は才色兼備の凪子がお気に入りだ。
海外留学もして視野が広く、男並みの度胸を持つ凪子に頭が上がらない節もあるのだ。
「ふうん…」
…凪子と一緒に綾佳ちゃんが来ないかな…。
無理とは分かっているが、春翔は夢想する。
…来ないなら、僕から行くかな…。
いやいや、昨日会ったばかりなのに…さすがにそれは厚かましく思われないかな…。
そわそわと考えていると、彌一郎の威丈高な声が響いた。
「お前は最近、九条家の引き篭もり姫にお熱らしいな」
その言い方にカチンと来た春翔は、言い返す。
「…綾佳ちゃんを引き篭もり姫なんて言うな!」
彌一郎は運ばれてきた珈琲を飲みながら口元を歪め嫌味な笑いを漏らす。
「…事実だろ?…凪子の結婚は、なかなか爵位が戴けない我が家にとって、皇室と縁続きの名門華族との親戚になれるメリットがあったが…お相手は…」
フッと冷笑を漏らす。
「いくら美男子の帝大教授だか知らないが、家計は火の車の貧乏公家だ。…凪子の莫大な持参金で救ってやったようなものなのだ。我が家にとってのメリットは凪子が公爵夫人になったことだけ。…随分割に合わない結婚だ」
慎一郎が好きな春翔は彌一郎を睨みつける。
「慎一郎義兄さんを悪く言うなよ!義兄さんは立派な人だ!」
「母さんは?」
春翔は薄いトーストにバターを塗りながら家政婦のあずさに尋ねた。
「奥様はいつものように5時にご起床になり、6時にはご朝食をお召し上がりになりましたよ」
春翔は肩を竦める。
「相変わらず早起きだなあ」
そこにスーツ姿の兄、彌一郎が現れる。
「お前が遅すぎるんだ。…大学は?ちゃんと行っているのか?」
ご自慢のスイスの高級腕時計を癇性に磨き上げながら、彌一郎が尋ねる。
「行ってるよ」
彌一郎が苦手な春翔はそっけなく答える。
「フン…お前の頭で帝大に入れたのは奇跡なんだからな。落第しても構わんからちゃんと卒業しろよ。お前の取り柄は今の所、顔しかないんだからな」
相変わらず嫌味な野郎だと春翔は心の中で舌を出しながら、無視をする。
彌一郎は近くのメイドに珈琲を持って来るように言いつけると、春翔の前に座る。
「今日は凪子が挨拶に来るんだよな。…俺は凪子に会ってから銀行に顔を出す」
銀縁眼鏡を気障に上げ、髪を撫で付ける仕草をする。
なんのかんの言いながら、彌一郎は才色兼備の凪子がお気に入りだ。
海外留学もして視野が広く、男並みの度胸を持つ凪子に頭が上がらない節もあるのだ。
「ふうん…」
…凪子と一緒に綾佳ちゃんが来ないかな…。
無理とは分かっているが、春翔は夢想する。
…来ないなら、僕から行くかな…。
いやいや、昨日会ったばかりなのに…さすがにそれは厚かましく思われないかな…。
そわそわと考えていると、彌一郎の威丈高な声が響いた。
「お前は最近、九条家の引き篭もり姫にお熱らしいな」
その言い方にカチンと来た春翔は、言い返す。
「…綾佳ちゃんを引き篭もり姫なんて言うな!」
彌一郎は運ばれてきた珈琲を飲みながら口元を歪め嫌味な笑いを漏らす。
「…事実だろ?…凪子の結婚は、なかなか爵位が戴けない我が家にとって、皇室と縁続きの名門華族との親戚になれるメリットがあったが…お相手は…」
フッと冷笑を漏らす。
「いくら美男子の帝大教授だか知らないが、家計は火の車の貧乏公家だ。…凪子の莫大な持参金で救ってやったようなものなのだ。我が家にとってのメリットは凪子が公爵夫人になったことだけ。…随分割に合わない結婚だ」
慎一郎が好きな春翔は彌一郎を睨みつける。
「慎一郎義兄さんを悪く言うなよ!義兄さんは立派な人だ!」