蜘蛛♠
第4章 誤算
俺は…………
これでもそこそこ腕はたつ。
修羅場もそれなりにくぐってきた。そういうものだけに働く勘がある。
その勘が言っている…………
俺はここで死ぬ…………。
S子を目の前にした川澄は、その場から動くことができなかった。
3年前、偶然町中で出会ったときよりも、明らかに魅力が増している。15年前と比べたらどうだろうか。
これほどきれいになるとは誰が想像しただろうか。
稀に、歳をとるほど魅力が増す女性がいるが、S子は明らかにその類いの女性だ。
そして注目すべきはその服装。
まさにパジャマだ。いかにも、寝る準備万端です!!といった感じの、ピンクの水玉模様を施したボタン式のパジャマ。
そして、ほぼ化粧をしていなく素っぴんに近い。
それでいてこの美貌……。
だが、それとは打って変わって何か不気味な物を感じる。
今まで出会ってきた女性とは明らかにオーラが違った。
例えるなら「魔女」、
もしくは「魔性の女」。
会話をせずにして、オーラのみでS子の底知れぬ本質が見抜けるほどに。
これほど禍々しいオーラをかつて見たことがあるだろうか。いったいどれ程の修羅場をくぐったらこれほどの………。
何か言葉をかけなきゃいけない。だがそう思えば思う程、体が硬直してしまう。
何とかこの金縛りを解こうと川澄はオーラを全開にした。
すると最初に口を開いたのはS子だった。
「圭ちゃんだよね?久しぶりね!」
久しぶりに聞いたS子の声。
予想を裏切る大人びた声。もっと可愛い系の声だと想像していた。
川澄の事を「圭ちゃん」と呼ぶのは、15年前と変わらないようだ。
だがそれしか覚えていない。S子を前にしても他の事はまるで思い出せない。
間を恐れた川澄はやっとの事で金縛りを解いた。
「久しぶりだねS子ちゃん!それと…」
いいながらM奈だと思われる方向を向いた。
茶色というよりは金に近い髪色。化粧が濃く、いかにもスナックで働いてそうな顔立ち。
下はチェックのミニスカートに上は黒のキャミソールにパーカーを羽織っている。
スタイルは抜群によく、顔もそんなに悪くない。恐らく何人もの男を落としてきたのだろう。その自信に満ち溢れたオーラがヒシヒシと伝わってきた。