蜘蛛♠
第4章 誤算
「M奈ちゃんだよね?S子ちゃんから聞いてるよ!よろしくね!」
「よろチクビ~!M奈だよ~!チャオチャオ~圭ちゃん~!!フフハハハッ!!」
M奈の大音量の声が、川澄の鼓膜を勢いよく通過する。
なんだこいつは……
なんだこの馴れ馴れしさは……。
黙っていればいい女なのに…戦闘力たったの「5」!!ゴミめ……
川澄のスカウターはM奈の第一声でそれを判断した。
「なんかごめんね二人とも~!!遅くなっちゃって!!お詫びにホラッ!!お酒とおつまみいっぱい買ってきたよ~!!」
言って、川澄は二人に袋を広げた。
中身を覗き見るM奈。
「フフハハハ~!!めっちゃある~~!!マジ圭ちゃん優し~!!飲もう飲もう~♪」
大音量の声が寒空の中を響きわたる。
「M奈静かに!!圭ちゃんごめんね!気を使わせてしまって」
S子が人差し指を唇に当て、M奈に注意を促した。
もう夜も遅い。M奈の大音量の声は、夜空の下では核爆弾に匹敵する。
「じゃぁ行こっか!!」
「あっ、待って圭ちゃん!」
先を急ごうとする川澄を、S子が止めた。
「あたし子供達を友達の家に預けてるの。すぐそこなのよ。少し様子を見てくるわ。だからM奈、少しの間二人で飲んでて」
言いながらS子はM奈に確認をとった。
S子とLINEをしてた時は気づかなかったかが、どこか大人っぽい喋り方をするようだ。
それがまたミステリアス感に拍車を掛けているのかもしれない。
「任せてS子~!!圭ちゃんベロンベロンに酔わせとくわ~!!さぁ、こっちよ!!圭ちゃま!!着いてきて~!!」
M奈の指示通り、川澄は後ろからついて行く。
せっかくS子と出会えたのに、早くも引き離される運命。まだろくに会話もしていない。
ふと振り返ると、S子が手を振りながら遠ざかって行く。
気のせいかもしれないが、その表情はどこか寂しげだった。
M奈はアパートを指差しながら川澄の方を向いた。
軽く足をふらつかせている。すでに酔っぱらっている様子だ。
「このアパートの~、101がS子のお部屋だよ~圭ちゃま!!早く早く~♪」