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赤い鴉

第3章 rain

「行って来ます」
「いってらしゃい」
高いスーツに着替えマンションを出る大河、身なりも良く金もあるが時間の大半を仕事と弟に費やしているため20代の後半を過ぎている今も初体験すら済ませてない。さすがに迷惑をかけすぎていることに自覚はあるし、いずれ独り立ちしたいと考えているが当の大河がタケルの独り暮らしに大反対で何かとタケルに甘い大河だがそれだけは絶対に認めない。


「あ―最悪…」
兄の大河が仕事の付き合いの飲み会で遅くなると電話があったのは1時間前…実家ではお手伝いが、家では大河がご飯を準備してくれるためタケルに作れる料理は皆無…仕方ないのでファーストフードに寄ろうと大型ショッピングモールに向かう途中雨が降り始めた。ずぶ濡れのままファーストフードに入れないので家に帰って出前を取ろうと来た道を引き返す。
「綾瀬じゃん久しぶり」
(うわっ本当に最悪)
タケルは話しかけて来た男を無視して道を引き返そうとする。
「綾瀬…無視することないだろ」
肩を掴まれ渋々振り向くと不機嫌そうな顔をした男…岸田はタケルの中学の頃の先輩でそして…。
「無視するなんて酷いじゃないか」
「うざいよ…アンタ…」
「それよりそんなに濡れて風邪引くぞ」
「だった引き止めるなよ」
タケルが岸田に背を向けて歩き出そうとすると岸田は傘を指した。
「僕の家は近くだから久しぶりに寄ってよ」
タケルは顔を引き吊らせる…あの事件以降…男に抱かれる快感を忘れられなくなったタケル、悶々とした日々を過ごしていたある日……岸田が近付いて来た。
『君、男に抱かれたことあるでしょ?』
あの日以降、人と関わるのを頑なに避けていたタケルに何かと世話を焼いてくれた岸田がそう云った時…タケルは顔を青くするだけで否定の言葉ひとつ出なかった。そのまま岸田に押し切られ家に連れ込まれ躰を重ねた。
「もしかして昔のことを思い出した」
岸田の言葉でタケルはハッと我に帰る。岸田がニヤニヤしながらタケルを見ていた。
「 …別に…」
「じゃあ何も問題ないな」
岸田は強引にタケルの腕を掴み傘の中に入れる。腕を外そうとして抵抗しようとすると軋むかと思うぐらい強く腕を握られ抵抗を諦めた。

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