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安住の地はマンションでした

第1章 mission1:抜け出せ!!

「海くん」

「うん?」

「ここ抜け出したらさ、美味しいものいっぱい食べようね!」

「空はいつもいつも、食べ物のことばっかだなぁ」

僕の双子の兄、海くんはふっと笑みを浮かべた。

「……そうだな。肉まんも回鍋肉も焼肉もしゃぶしゃぶも、たらふく食べよう」

「うん!たっくさん肉食べるぞー!」

やっと柔らかい表情になって安堵する。

やっぱ、海くんは笑顔の方がいい。

兄は海、僕は空。
両親がくれた唯一の贈り物で、手元にあるのはこの名前だけだ。
結局迎えに来なかったことは恨んでいるけど、仕方ないとも思ってる。
恨んでいるけど、嫌いでは無い。

だって、僕たちのお母さんとお父さんだから。

いつか会いたい、なんて贅沢は言わない。
ただ、生きていてくれればそれでいい。

それに今は感傷に浸っている暇はないんだ。
いつでも脱出出来る準備をしておかなければ。



と、刹那。
複数の、革靴の音。

「……空」
「うん、来たね」

大丈夫、大丈夫。
絶対うまくいく。

僕たちは、筋肉が麻痺し、痙攣を起こす薬物を体内に毎日入れられている。
それに、頑丈な鉄の鎖で後ろ手と足を縛られているから彼らに抵抗などしないと思われている訳だけど。

ケモノの力をナメすぎだ。
こんな薬物、大したことない。
鉄の鎖だってなんのこれしき!

沢山の実験を行われた。
切られたり焼かれたり……僕たちケモノはどれ程の回復力か。
どれだけ耐性があるか。

いろいろ、バレているけれど。

満月の夜に力が強まる事は、かろうじて知られていないようだから。
でも、それも今夜バレる。

だからチャンスは一度きり。

絶対、絶対に抜け出すんだ。
生臭くじめじめした牢獄から!!

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