愛するあなたよ、この手を離さないで
第1章 この手を離さないで
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十年前の暑い夏の日、私は迷子だった。
長い坂を転がっていくガラス玉に目を奪われ、追ったせいでこうなってしまった。
親と兄弟といたのだけれど、はぐれてしまって1ヶ月以上経つ。
広い街とたくさんの人に圧倒されながらうろうろしてさ迷っていたところを救ってくれた。
その彼の名は廉(レン)。
男で背格好からしていい大人だった。
ボロいアパートに一人暮らし。
友達を連れ込むこともない孤独な人。
彼は名前がなかった私に莉音(リオ)という名前を付けてくれた。
最初は彼の事をただの世話人という以外何とも思っていなかったんだけど。
一緒に暮らして、時間を共に過ごすうちにどんどん好きになっていった。
私には美味しいご飯を食べさせてくれるのに、廉のご飯はいつも体に悪そうなインスタントラーメン。
『莉音には美味しいものを食べさせてあげたいから』って、中身がほとんどない財布を見て笑っていた。
マメで優しくて、私を見るとすぐ抱き寄せてくれる廉。
そんな彼が世界一大好き。